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〜いわゆる「サッカーボール事件」最高裁判決の実務への影響(1)〜

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責任能力なき未成年者の行為に対する親権者の監督責任について
〜いわゆる「サッカーボール事件」最高裁判決の実務への影響(1)〜

弁護士 東重彦

平成27年7月13日更新

 最高裁判所は、平成27年4月9日、第一小法廷にて裁判官全員一致での判決(以下「本判決」といいます。)において、以下のとおり判示しました。
「責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にないこの行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが、本件ゴールに向けたフリーキックの練習は、上記各事実に照らすと、通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また、親権者の直接的な監視下にないこの行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものとならざるを得ないから、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」

 この点、原審である大阪高等裁判所は、平成24年6月7日、以下のとおり判示しています。
「子供が遊ぶ場合でも、周囲に危険を及ぼさないよう注意して遊ぶよう指導する義務があったものであり、校庭で遊ぶ以上どのような遊び方をしてもよいというものではないから、この点を理解させていなかった点で、控訴人ら(親権者)が監督義務を尽くさなかったものと評価されるのはやむを得ないところである。」

 また、第1審である大阪地方裁判所は、平成23年6月27日、本件親権者については、特段理由を付することなく、未成年者を監督すべきであったとして民法714条1項による賠償責任を認めています。

 各判決内容等を検討すると、第1審では、被害者の受傷と死亡との因果関係の存否、被害者の死亡に対する本人の訴因等及び本件事故の寄与度等のその余の争点についての主張立証が繰り返されたようですが、表題の争点についてはほとんど主張立証もなかったようです。
 また、原審では加害者側の代理人が代わり、第1審ではほとんど争点とはされていなかった表題の争点について、「本件親権者は一般的な家庭と同じく、未成年者に対し、危険な遊びをしないよう注意し、そのほか身上を監護し教育を施してきた。責任能力者に近づいていく未成年者は能力の発達に応じてその行動の自由に任せておく領域が拡大するため、特に具体的な危険が予測されない限り、いちいちの行動への監督・管理という色彩は薄れ、監督義務は、普段からの教育・しつけの義務という抽象的なものへ後退する。」との趣旨の一般論を展開し、「本件では、本件未成年者は11歳という年齢から責任能力者に近づいており、普段から一般家庭と同じく未成年者に教育・しつけを行ってきた本件親権者に監督義務違反はない。また、本件小学校の校庭にはサッカーゴールがあり、放課後サッカーを含む球技をすることが禁じられていなかったから、本件親権者に校庭で学校が設置したゴールに向かってサッカーボールをけらないよう未成年者を監督する義務があったなどとは言えない。」と主張しましたが、原審判決はこれを一蹴した形です。

 原審のかかる結論は、当時の多くの判例解説で「民法714条により明らかであり、本判決の判断は相当である。」と評価されていましたし、実務家の多くもそのように理解していたと思われます。
 次回は、にもかかわらず最高裁が本件でこれまでと異なる判断をするに至った理由を考察し、今後の同種事案に与える影響を考えてみます。
                                                                    

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