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野球場におけるボール等の直撃事件
−札幌ドーム事件一審判決と宮城球場事件の比較−
弁護士 相内真一
平成27年6月12日更新
1 | 野球場でのファールボール直撃事案については、本リーガルトピックスの平成23年10月20日付の「クリネックススタジアム宮城球場 ファールボール直撃事件」と題する項目で紹介させて戴きました。 その後の同種事案として、「甲子園球場バット木片直撃事件」がありました。 同事案の裁判の原告の方は、平成23年10月19日、甲子園球場で知人ら3人で阪神−横浜(現DeNA)戦を、3塁側ベンチに近い前から5段目の席に座って観戦していました。そして、阪神の選手がゴロを打った際に折れたバットの木片が、原告の顔面を直撃し、原告は右頬と右手甲に裂傷を負い、結局、右手の甲を5針、右頬を約20針縫い、いずれの部位にも傷跡が残りました。治療費は球団側が全額負担しました。直撃を受けた方は阪神電鉄に対して損害賠償請求訴訟を提起しましたが、平成26年1月30日、神戸地方裁判所尼崎支部は、前述の「クリネックススタジアム宮城球場 ファールボール直撃事件(以下、「宮城球場事件」といいます)の判決と概ね同様の理由で、原告の請求を全面的に棄却しました。 |
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2 | 今回ご紹介するのは、札幌地方裁判所で平成27年3月26日に言い渡された事案です(以下、「札幌ドーム事件」といいます)。 平成22年8月21日、札幌ドームの一塁側内野席で、野球を観戦中、ファールボールが原告の顔面を直撃し、原告は右眼球破裂等の傷害を負いました。そこで、札幌ドーム所有者(札幌市)、ドーム占有者(且D幌ドームと北海道日本ハムファイターズ)並びに試合主宰者たる北海道日本ハムファイターズに対して4600万円余の損害賠償請求訴訟を、原告は提起していました。宮城球場の第一審と控訴審と甲子園球場事件の第一審では、いずれも原告の請求は全部棄却されていましたが、札幌ドーム事件の第一審は、原告の請求を概ね認容しました。球団等の被告は控訴したとのことです。 |
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3 | そこで、両判決が結論を異にした理由を検討するに際して、先ず、前提事実にどのような異同があるのかどうかを確かめてみたいと思います。 (宮城球場事件)
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4 | 以上の比較からすると、札幌ドーム事件の判決で指摘されているように、札幌球場の安全対策、安全設備のレベルが、宮城球場に比較して、明らかに見劣りしていたわけではないようです。 |
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5 | では、判断を分けたのはどのような理由だったのでしょうか? 判断を分けたのは |
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ということについて、二つの事件の裁判官の考え方が180度違っていたためです。 宮城球場事件の裁判官は、 |
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ことを前提として、 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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から、球場の瑕疵と球場・球団側の注意義務違反を否定しました(以下、「諸調和説」といいます)。 他方、札幌ドーム事件の裁判官は、 |
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と述べるとともに、 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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であるとして、 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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し、原告の過失を一切認めることなく、球場、球団側の反論を全て排斥して、球場の瑕疵と球場・球団側の注意義務違反を認定しました。 以下は、両判決の判決理由の主な内容です。 |
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6 | 競技観戦者の危険防止のために設備としては、アイスホッケーのリンクで、ゲームで用いられるパックがリンク表面から飛び出して観客に怪我をさせるのを防止するために、ボードの上部に透明な硬質ガラスやアクリル樹脂の板が取り付けられているリンクがあります。アクリル板の上部に、更に防護用のネットが取り付けられていることもあるとのことです。ただ、リンクと球場の規模の差、観戦者やファンの多さは大きく異なりますから、ホッケーリンクと同様の設備が無いからといって、直ちに球場設備に瑕疵があるということは出来ません。 |
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7 | 結局は、 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ということの考え方の違いに帰着することになります。 観客構成を熱心な野球ファンを中心として考えれば宮城球場事件の結論となります。 他方、観客構成をそのような野球ファンに限定することなく「幼児や高齢者であっても安全に楽しめる」と言うことを重視すると、札幌ドーム事件の結論に導かれます。 私は、臨場感を阻害するような防護柵の設置を義務付けることに賛成はできません。自己責任を全て否定する見解も行き過ぎであると思います。 しかし、裁判になったような直撃事案のことを「単にお気の毒でした」で済ますことが適切であるということも出来ないと考えています。 これを解決するためには、一定額を超える観戦料金のチケットの代金の一部、例えば一枚辺り〇〇円を保険料の支払いに充てるような形で、当然に保険が付保されるような仕組みを作り上げることは一つの解決案ではないでしょうか。それに際しては、野球場の防護柵(ネット)の高さ等の最低基準を業界で決めることが望まれます。更に、全座席を保険対象とすることは困難でしょうから、ファンの皆様に、防護柵等が設置されている座席の範囲と保険対象となる座席の範囲を広くお知らせするとともに、チケット上、そのことを明記するなどの対策を講じることも検討の対象にされてしかるべきと思います。 |
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以上 |