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の判例紹介(最高裁平成27年2月26日判決(平成26年(受)第1310号))@

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派遣労働者に対するセクハラ発言等を理由とする懲戒処分及び降格処分の有効性について
の判例紹介(最高裁平成27年2月26日判決(平成26年(受)第1310号))@

弁護士 谷岡俊英

平成27年4月22日更新

 すでに報道等でご存知の方も多いかもしれませんが、平成27年2月26日、最高裁が、セクシュアル・ハラスメント(以下、「セクハラ」といいます。)発言等をしたことを理由に行った懲戒処分についての判断を行いましたので、ご紹介させていただきます。

1.事案の内容
 本件は、株式会社Y(以下、「Y社」といいます。)の従業員であるX1とX2がセクハラ行為等を理由としてY社から出勤停止の懲戒処分について、懲戒処分とされた事実がない、手続の適正を欠いている、懲戒事由と均衡を欠く不相当に重い処分であるなどの理由で無効であり、懲戒処分を受けたことを理由とする降格も無効であると主張して、@懲戒処分の無効確認、A降格前の地位にあることの確認、B懲戒処分による出勤日数の減少を原因として減額された給与及び賞与の減額分及び遅延損害金の支払、C降格を理由として減額された給与の減額分の支払、D無効な懲戒処分及び降格をしたことが不法行為にあたるとして慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた事案です。

本件事実関係は以下のとおりです(懲戒処分に関係のある点のみを記載します)。
 ・ Y社は水族館の経営等を目的とする株式会社であり、X1はY社営業部サービスチームマネージャー(課長代理)、X2は営業部課長代理であった。
 ・ Y社の営業部には、X1、X2らのほか、株式会社D(以下、「D社」といいます。)から派遣されたA、D社の従業員でY社から請け負っている業務に従事していたBを含む20数名の従業員が勤務していた。
 ・ 平成23年当時、Y社従業員の過半数は女性であり、水族館の客の約6割も女性であった。
 ・ Y社では、職場におけるセクハラ防止を重要課題として位置づけ、かねてからセクハラの防止等に関する研修会への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし、平成22年11月1日には、「セクシャルハラスメントは許しません!!」と題する文書(セクハラ禁止文書)を作成して全従業員に配布し、職場にも掲示するなど、セクハラ防止のための種々の取り組みを行っていた。
 ・  Y社の就業規則には、社員の禁止行為の一つとして「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」が掲げられ(4条(5))、就業規則に違反した社員に対しては、その違反の軽重に従って、戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇の懲戒処分を行う旨が定められていた。また、社員が「会社の就業規則等に定める服務規律にしばしば違反したとき」等に該当する行為をした場合は、Y社の判断によって減給又は出勤停止に処するものとされていた。
 ・ セクハラ禁止文書には、禁止行為として、「@性的な冗談、からかい、質問」「Bその他他人に不快感を与える性的な言動」「D身体への不必要な接触」「E性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力発揮を阻害する行為」等が列挙され、これらの行為が就業規則4条(5)の禁止する「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれることや、セクハラ行為者に対しては、行為の具体的態様、当事者同士の関係、被害者の対応、心情等を総合的に判断して処分を決定することなどが記載されていた。Y社において、セクハラ禁止文書は、就業規則4条(5)に該当するセクハラ行為の内容を明確にするものと位置付けられていた。
 ・  X2は以前から女性従業員に対する言動について、D社内で多数の苦情が出されており、平成22年11月に営業部に異動した当初、上司から女性従業員に対する言動には気をつけるよう注意されていた。
 ・  X1、X2は平成22年11月頃から同23年12月までの間に少なくとも本件各行為(X1については8種類のX2については6種類の言動)を行った。
 ・  Y社は、平成23年12月、Aらから本件各行為などのセクハラ行為等を受けた旨の申告を受け、X1、X2から事情聴取等を行ったうえで、X1、X2を本件各行為などのセクハラ行為等を懲戒事由としてX1については30日間、X2については10日間出勤停止とする懲戒処分をした。
・  Aは本件各行為が一因となって平成23年12月末日限りでD社を退職し、勤務を辞めた。Aは、Xらのセクハラ行為等について、Xらによる報復や派遣元であるD社の立場の悪化を懸念し、Xらに直接抗議したりY社に訴えたりすることを控えていたが、勤務を辞めるにあたり、BとともにY社に対して被害の申告をした。

2.大阪地裁(一審)の判断
 一審は、以下のように述べて懲戒処分を有効であると判断しました。
1)懲戒事由該当性
 一審判決は、まず、セクハラ行為等の存在を認めたうえで、「使用者が労働者に対して懲戒処分を行うためには、労働者の行為が、就業規則に定める懲戒事由に形式的に該当するにとどまらず、企業秩序を現実的に侵害したり、その現実的な危険があったりするなど実質的に懲戒処分に相当するような行為であること、すなわち懲戒処分を行うことについて「客観的に合理的な理由」(労働契約法15条)があることが必要である」と述べました。
 そして、この観点から、自らの浮気について話す、卑猥な言葉をAに言わせようと持ちかけるなどのX1の言動は「強い不安感や不快感を与えることを認識していたか、少なくとも容易に認識し得たものということができ」「一般の女性労働者の感じ方に照らし、発言を聞いた女性労働者に対して強い不快感を与え、職場規律を乱す行為ということができ、実質的に懲戒処分に相当するものといえる」と判断しました。
 また、X2の、相手の気持ちや態度に関係なく一方的に恋人の有無を尋ねたり、Aの年齢、仕事、行動等に関して侮辱的な発言をしたり、具体的な男性従業員の名前を複数挙げて、結婚するなら誰がいいかを尋ねたりする等の行為は、「実質的に懲戒処分に相当する」と判断しました。
 さらに、セクハラ研修後にXらがした発言(「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよな」)については、Xらが「セクハラ行為を重大なものと捉えておらず、セクハラ行為を行うのではないかという強い不安感や不快感を与えるものであるだけでなく」、Y社の「セクハラ行為防止の取組を無にしかねないものである」ものであり、Xらが「管理職の立場にあることも考慮すれば…実質的に懲戒処分に相当するものといえる」と判断しました。

2)手続の相当性 
 これについて、一審判決は、「本件各懲戒事由について個別具体的に摘示することまではしていないが、そのことには合理的な理由があ」ったこと、Y社はXらに対し、Xらが「どのような行為が問題とされているかを認識して反論することが可能な程度には事実を摘示」していたこと、Y社が「複数回にわたりAらに対する事情聴取を行うなどし」、Xらに「弁明の機会を与えた上で、本件各懲戒事由を認定したものであ」ったこと、Xらが「事実関係について基本的に認めていた」こと等をあげて、本件各処分手続には不相当な点はないと判断しました。

3)処分の相当性
 これについて一審判決は、Xらの「セクハラ行為等の悪質性及びこれによる被害の程度」、Xらの「役職」、Y社の「セクハラ行為防止の取組み等に照らせば」「本件各処分があまりにも重すぎるものとして、社会通念上相当性を欠くとまではいうことはできない。」と判断しました。

3.大阪高裁(控訴審)の判断
 これに対し、控訴審は以下のように述べて、懲戒処分は無効であると判断しました。
1)懲戒事由該当性
 控訴審判決もセクハラ行為等の存在を認めたうえで、「本件各処分が有効と認められるためには、本件各対象事実について、それがセクハラ禁止事項…に該当するか否かを形式的に検討するだけでなく、他の職員の個人としての尊厳を不当に傷つけ、又は他の職員に対し、その就業意欲を低下させたり、その能力を発揮することの阻害となったりする程の強い不快感を与えるなど」、Y社の「企業秩序や職場規律の維持の観点から看過し難いといえるか否かを検討する必要があり、その検討に当たっては、懲戒権の行使があくまで企業秩序の維持を目的としたものであることに鑑みれば、当該行為の直接の相手方の主観だけでなく、当該企業の職員構成や営業内容等も踏まえつつ、その一般的な職員の感覚も考慮するのが相当である」と述べました。
 そのうえで、本件各処分の対象事実のうち、X1が浮気相手や自らの性欲等について話したこと、卑猥な言葉を言わせようとしたこと、浮気相手と推測される女性からのメールを見せたり、写真を見せたりしたこと、女性客のことについて話したことは懲戒事由に該当する行為であると判断しました。
 また、X2については、Aの年齢、仕事を揶揄したこと、夜の仕事を勧める発言をしたこと、浮気や風俗店について話し、Aの父親を侮辱するような発言をしたこと、具体的な男性の名前を挙げて好みの異性を聞いたこと、セクハラ研修後の発言について懲戒事由に該当する行為であると判断しました。

 2)処分の相当性について
 これについて、控訴審は、Y社が「本件各処分として主張した事実の全てが認められたり、懲戒事由に該当したりするものではなく、この点において、既に本件各処分はその基礎の一部を欠いている」こと、X2の行為のうち、事実確認書や事情聴取において言及されていないものがあり、「弁解の機会を与えられていないから、手続の適正を欠いている」こと、XらがAから「明確な拒否の姿勢を示されたり、その旨被控訴人(Y社)から注意を受けたりしてもなおこのような行為に及んだとまではいえない」こと、Y社においては「セクハラ防止活動に力を入れていたとはいうものの、一般的な注意以上に、従業員の個々の言動について適切な指導がされていたのか疑問がある」こと、Y社では「これまでセクハラ行為を理由とするものを含めて懲戒処分が行われたことがな」く「具体的にセクハラ行為に対してどの程度の懲戒処分を行う方針であるのかを認識する機会がなかった」こと等の点を考慮すると、「事前の警告や注意、さらに被控訴人(Y社)の具体的方針を認識する機会もないまま、本件各懲戒該当行為について、突如、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは、控訴人ら(Xら)にとって酷に過ぎるというべきである」と判断しました。
 そして、結論として、「本件各処分は、その対象となる行為の性質・態様等に照らし、重きに失し、社会通念上相当とは認められず、本件各処分につき手続の適正を欠く旨の控訴人ら(Xら)の主張について判断するまでもなく、権利の濫用として無効である」と判断しました。

 紙面の関係上、今回はここまでとし、次回で最高裁の判決内容をご紹介させていただきます。
                                                                    

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