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英文契約書の実務−2

弁護士 礒川剛志

平成25年5月15日更新

   〜 英文契約書の実務−1 つづき 〜

3.英文契約書の特徴
 英文契約書の特徴はとにかく内容が詳細で長文であることが指摘できます。単に代金の決済方法や物品の引渡条件を記載するだけではなく、将来的に発生する可能性のあるリスク事項を網羅するようルールが定められているからです。
 また、日常英語と異なる言い回しや、独特の用語が使用されているのも特徴的です。例えば、「Aは〇〇をしなければならない。」、「Aは〇〇するものとする。」という意味で、「A shall …」という表現が使用されますが、日常英語のようにwillを使用することはほとんどありません。また、「Aは〇〇することができる。」という意味で、「A may …」という表現が使用しますが、canを使用することはありません。さらに、日本語の契約書で「製品(電子部品を含む。)」といった規定の仕方をしますが、英文契約書の場合、「Products, including but not limited to electronic parts」とわざわざ「製品(電子部品を含むが、これに限定する趣旨ではない)」といった勿体ぶった言い方をします。
 英文契約書が相手方から提示された場合に翻訳会社に翻訳を依頼されるケースも多いと思いますが、長文かつ独特の言い回しであるが故に、翻訳会社が法律文書の翻訳に慣れていないと、意味不明の日本語訳が出来上がってしまうということがありえます。

4.英文契約書の構造
1) 前文
 当事者を特定する情報や契約に至った経緯、契約締結日が記載されます。
2) 本文
@ 定義条項
 必ず存在するというわけではありませんが、長文の契約書の場合、冒頭にたくさんの定義条項が羅列されるものがあります。
A 取引条件
 販売契約であれば、代金の決済条件や物品の引渡条件を記載することになります。特に買主の交渉力が強いケースでは、売主に一定量の在庫を常に確保することが契約上義務付けられている条項があります。このような場合、買主からすればそのような義務が実際に履行できるか、履行できなかった場合のペナルティがどうなっているか、取引が中止された場合の在庫の買取りをしてもらえるのか、といった観点からのチェックが必要となります。
 また、販売契約で他の買主により安い価格で販売している場合には、売主は当該買主に対してもその価格まで販売単価を下げないといけないといった買主に有利な条項が入っているケースもあります。
B 契約期間
 ほとんどの契約で契約期間が定められており、例えば本契約締結後3年間、契約期間終了前2か月以内に異議がなければ自動更新するといった条項になっています。契約期間の長短、中途解約条件といった条項は特に重要です。というのも、仮に取引開始後、実際の思惑から外れたために取引を中止したいというようなケースでも、契約期間が短ければ契約期間終了時点で更新をしない、あるいは中途解約条項があれば契約期間の途中でも中途解約が可能です。特に相手方から提示された契約書のドラフトの場合、相手方からしか中途解約できないような条項になっているケースもあるので注意が必要です。
C 一般条項
 一般条項としては、品質保証条項、危険負担条項、損害賠償条項、紛争処理条項などの条項が入っており、これらは契約書に一般的に見られる条項として、ボイラープレート(Boiler plate)条項と呼ばれます。取引が順調な時には問題となりませんが、いざトラブルが発生した時には重要となる条項であり、安易に読み飛ばすと大いに後悔することになります。
 特に販売契約等では、買主は厳しい品質保証(Warranty)を要求しますし、売主はできるだけ免責(Indemnity、Limited Liability)されたいと考え、交渉が行き詰まってしまうケースもあります。結局はどちらが強い立場で交渉を行っているかで決まってしまうわけですが、本来は価格条件との兼合いで交渉をするといった考え方が合理的なはずです。例えば、品質保証を付けない代わりに一定の値引きをするといった交渉がありうるわけです。
3) 別紙
 Appendixという形で製品の仕様書やプライスリスト等が添付されることがありますが、法的な内容が含まれるケースもあり、法務担当者は別紙部分についても読み飛ばさないよう注意が必要です。

5.準拠法と紛争処理条項
1) 準拠法
 国際取引に関わる契約書の特徴として、準拠法(Governing law)と紛争処理条項(Dispute Resolution)が重要になります。ここでいう準拠法とは、契約条項の解釈の基準としてどこの国の法律を適用するかという問題です。国内取引の場合、準拠法は当然、日本法なので準拠法の規定自体が存在しないのがほとんどです。日本企業とタイ企業間の販売契約につき、日本法を適用すればAという解釈になるが、タイ法を適用すればBという解釈になるということがありうるわけです。日本企業からすれば、タイ法の内容はローカルの弁護士に確認しない限り分からないわけですから、当然、準拠法は日本法が有利ということになります。
2) 紛争処理条項
 国内取引でも、例えば「本契約に関連する紛争については大阪地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。」といった合意管轄条項を付けることがあります。これに対して、国際取引の場合は、そもそも裁判所による裁判という紛争処理方法で良いのか、あるいは国際仲裁機関による仲裁(Arbitration)が良いのかというところから考え、さらにその場所をどこにするのかということを考えることになります。
 何故、国際取引の場合に仲裁にするケースが多いのかと言えば、例えば、タイ企業相手の契約書で大阪地方裁判所を専属的合意管轄裁判所に指定したとして、実際に紛争が生じて大阪地方裁判所で裁判をしたとします。そこで日本企業が勝訴判決を得たとしても、直ちにはタイ企業のタイ国内に存在する財産には強制執行ができないという問題があるからです。すなわち、日本の裁判所の判決の効力は、基本的に日本国内でのみ有効であり、必ずしも外国でその有効性が認められて強制執行できるという保証はなく、最悪の場合、もう一度、外国で裁判をやり直す必要が生じてしまうわけです。
 一方、国際仲裁機関における仲裁であれば、仲裁条約(ニューヨーク条約)に加盟している国々では有効にその判断が効力を有し、強制執行が可能であり、多くの国が同契約に加盟していることから、国際取引では国際仲裁機関による仲裁を紛争解決方法として選択することが一般的になっているわけです。

(紛争解決条項の具体例)
 All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in Osaka, in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association.

 上記では、仲裁地を大阪にしていますが、相手方企業が日本での仲裁を嫌がる場合に、第三国(香港やシンガポール)を仲裁地として合意することもあります。但し、この場合、いったん紛争が生じれば、ローカルの弁護士を探すことになり、労力とコストが増加することは覚悟しなければなりません。

6.まとめ
 慣れない英文である上に言い回しが難しくかつ長文ということで、よく内容を検討せずに調印してしまうというのがもっとも危険な対応です。特に国際取引に際しては、誠意を持った話合いで解決するといった日本的文化は全く通用しないことからすれば、国内取引の契約以上にその内容には注意する必要があります。
 以上
                                                                    

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