本文へ


リーガルトピックス(Legal topics)

ホーム > リーガルトピックス >平成25年 >英文契約書の実務-1

リーガルトピックス(Legal topics)

一覧に戻る

英文契約書の実務−1

弁護士 礒川剛志

平成25年5月1日更新

 最近、顧問先企業から英文契約書のチェック依頼が増えています。日本国内のマーケットに閉塞感がある状況で、中小企業を含めた日本企業の海外進出が進んでいること、中国から東南アジアへ日本企業の進出が移行していることが背景にあるのではないかと推測されます。

1.世界共通言語としての英文契約書
 国際取引に際して如何なる言語を用いて契約書を作成するかは、原則として契約当事者の自由ということにはなります。
もっとも、日本企業からすれば、日本語の契約書が良いということになる一方、ベトナム企業からすれば、ベトナム語の契約書が良いということになってしまいます。そのため、単に相手方企業がアメリカ企業なので英文契約書を作成するという場面だけではなく、両企業の母国語が異なる場合に両者が同等に理解できる英文契約書が世界共通言語として採用されるということになるわけです。結果、相手方企業が英語を母国語とする企業か否かを問わず、国際取引では英文契約書が利用されるケースがほとんどということになります。

2.英文契約書の種類
1) 取引開始前に締結される英文契約書として以下のような種類があります。

@ Non-Disclosure Agreement (NDA)
 Confidentiality Agreementというタイトルの場合もありますが、いわゆる秘密保持契約書です。例えば、日系メーカーが東南アジア企業に製品の製造委託を行うことを検討する際に、仕様書やサンプル等を開示して取引可能性を打診する。その際に、仕様書やサンプル等を他の目的に流用されないようにしたいといった場面で利用されます。
A Letter of Intent (LOI)
 意向確認書や基本合意書と訳される書面です。例えばM&Aの場面で、LOIを締結した上で、詳細なデューデリジェンスを行い、最終契約締結に至るといった使われ方をします。
 LOIについては、特にbinding か、non-bindingかが重要であり注意が必要です。すなわちbindingということになれば、そのLOIは両当事者を法的に拘束するものとなり、これに違反した場合は損害賠償責任が発生することになります。これに対して、non-bindingということであれば、あくまで紳士協定的な意味しか持たないことになります。LOIによっては、例えば、一定期間に対する独占交渉権の付与や秘密保持条項等、特定の条項のみに法的拘束力を持たせるということもあります。
B Memorandum of Understanding (MOU)
 日本語に翻訳すれば覚書ぐらいの訳語が適切かもしれませんが、正式契約締結前に既に決定済みの事項を規定する等の利用のされ方をします。法的拘束力についてはLOIと同じ問題があり、法的拘束力がない場合は議事録的な意味しかないことになります。

2)取引開始時に締結される英文契約書は、それぞれ取引内容に応じて種々の契約が締結されることになりますが、代表的なものとしていくつか例示しておきます。

@ Sales Agreement/ Purchase Agreement
 販売契約書のことですが、1つ1つの売買につき契約される場合もあれば、いわゆる基本取引契約書になっており、個別契約は、発注書(Purchase Order)によって締結されるスタイルのものもあります。また、メーカー等では、契約書のスタイルではなく、Terms and Conditions of Salesといった自社独自の取引約款を作成した上で、それに基づいて個別発注を受けるというスタイルもあります。特に後述の商品の品質保証条項等が重要となってきます。
A Distributorship Agreement
 販売店契約書ということになりますが、メーカー等の売主からの商品を販売店である買主が自己の資金で買い取り、販売店のリスクと計算で再販売するという契約です。一種の販売契約書ではありますが、継続的な取引関係を前提としており、また、販売店に国別に独占的販売権を与えるケースもあり、年間最低購買数といった条件が付される場合があります。
B Agent Agreement
 代理店契約書ということになりますが、上記Aの販売店契約書と類似するものの販売店がそのリスクと計算で再販売するのに対して、代理店はメーカーなどの売主の代理として商品を販売し、売主から代理店手数料を得るという点で商流が異なります。
C License Agreement
 特許やノウハウ等に関してライセンスを付与する契約になります。特に注意すべきは独占的なライセンスか、非独占的なライセンスかという点が重要です。また、ライセンシーがさらに第三者にサブライセンスする権利を有する場合もあります。ライセンスに対する対価はロイヤルティという名目で支払われますが、最初に一括でロイヤルティを支払うケースや売上等の数%という形で継続的にロイヤルティを支払う場合があります。
D Joint Venture Agreement
 日本企業が東南アジアに現地法人を設立する際に外資規制等の理由からローカル企業や個人と合弁会社を設立する場合等に締結されます。出資割合が重要になりますが、安易に50:50にしてしまい、どちらも株主総会で過半数が取れない結果、株主同士が対立して全く意思決定ができなくなってしまうようなケースもあります。また、設立する国の会社法によって株主総会の特別決議の要件が異なることから、特別決議の要件が3分の2か、4分の3かといったことを事前に調査した上で、出資割合を考えることが重要です。

(次回につづきます)
                                                                    

一覧に戻る

リーガルトピックス(Legal topics)