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建物の滅失と借家権、借地権の帰趨

弁護士 松本史郎

平成27年11月11日更新

第1  災害(大規模災害は除く)で貸家建物、借地権上建物が滅失した場合に借家権、借地権はどうなるのか。
   借家権             
     貸家が災害で滅失した場合には借家契約は終了し、借家権は消滅する。
   借地権
     借地上の建物が災害で滅失した場合
    (1)  平成4年8月1日より前に設定された借地権の場合
     建物再築について借地権設定者に異議がない場合
         建物が滅失した日から借地の契約期間が、30年(堅固建物)又は20年(非堅固建物)延長される。
       建物再築について借地権設定者に異議がある場合
        @  残存期間中は、従前の契約のままで借地権は消滅しません。但し、建物朽廃の場合(災害ではなく、時間的経過の中で建物が朽ち果てた場合)は、借地権が消滅します。
        A  残存期間満了時に、更新拒絶は可能ですが、当然に更新拒絶が認められるわけではなく、正当事由が必要となります。但し、残存期間満了時点で借地上に建物がない場合には、正当事由は不要です。
     (2)  平成4年8月1日以降に設定された借地権の場合   
       現在、問題となるケースはほとんどが(1)の場合のため、省略します。 

第2  地震、津波、河川氾濫、広範な火災等の大規模災害によって、貸家建物、借地上建物が滅失した場合に借家権、借地権はどうなるのか    
   大規模災害の場合に被災した借地人、借家人、保護のための措置を定めた法律として
    (1)  「罹災都市借地借家臨時処理法」(昭和21年法律第13号。以下「罹災都市法」といいます)という法律がありました。
 しかし、阪神・淡路大震災に際し、罹災都市法を適用した結果、かえって復興を阻害したという指摘があり、罹災都市法を見直す必要性が認識され、改正作業が行なわれた結果、平成25年に
    (2)  「大規模な災害の被災地における借地、借家に関する特別措置法」(平成25年6月26日法律第61号。以下「借地借家特別措置法」といいます)が成立し、(1)の罹災都市法は廃止されました。
   では、廃止となった罹災都市法(旧法)と借地借家特別措置法(新法)とで、どこが変わったのでしょうか。
 以下、主な変更点を列記します。
   
     
 旧  法 新  法 
 
 @優先借地権制度

政令で定める災害により借家が滅失した場合、借家人は申出により優先して借地権を取得する

→借地権が相当な価値を持つ現代に合わない

 
 @優先借地権制度を廃止
 
A優先借家権制度

政令で定める災害により借家が滅失した場合、借家があった場所に建物が再築されるときは、借家人は申出により優先して借家権を取得する

→賃貸人に過重な義務を負わせ、かえって建物が再築されないおそれがある

→現代においては被災者の居住等に対する公的支援が充実しつつある

 
A優先借家権制度を廃止し、従前の賃貸人による通知制度を新設

○従前の賃貸人が、建物を再築し、賃貸しようとするときは、その旨を従前の借家人に通知する。

→従前の借家人が居住していた場所に戻ることを促進し、コミュニティを維持する。

 
B借地権の対抗力の特例

借地上の建物が滅失し、何ら公示がなくとも、なお借地権の対抗力が5年間維持される

→何ら公示なく長期間にわたり対抗力の特例を認めると、取引の安全を害するおそれがある


B借地人の保護のための規律を改正・新設

○何ら公示なく借地権を対抗することができる期間を6か月間とし、政令施行の日から3年間は掲示による対抗力を認める

→「地震売買」を防止しつつ、取引の安全にも配慮した内容とする

→再築能力のある者に建物を早く再築させて早期の復興につなげる

 
C被災地短期借地権の新設

○被災地において、存続期間を5年以下とし、かつ、更新がない借地権の設定を認める。

→被災地における暫定的な土地利用のニーズに応える。

      
                                                                    

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