本文へ


リーガルトピックス(Legal topics)

ホーム > リーガルトピックス > 平成21年 > 独禁法改正について−2

リーガルトピックス(Legal topics)

一覧に戻る

独禁法改正について−2

弁護士   水口哲也

平成21年9月15日更新

 独禁法改正について−1の「第2 改正法の主内容」の続きより

 3   企業結合の見直し
       (1)   株式取得及び共同株式移転の事前届出制の導入
            株式会社につき,株式取得(法10条2項)及び共同株式移転(法15条の3第2項)について,合併等の他の企業結合の場合と同様に事前届出制となりました。
 株式会社の株式取得の事前届出の閾値は,企業グループベースで20%超及び50%超の株式を取得した場合となりました(法10条2項)。
 届出義務につき,あらかじめ届出を行うことが難しい場合(*)には,届出が免除されます(法10条2項但書)。TOBとの関係においては,ガイドラインが作成される予定です。

* あらかじめ届出を行うことが難しい場合とは,買収防衛策を発動する場合や合併につき受動的な場合等が該当するものと思われますが,現時点では明確ではありません。内容については,委員会規則に委任されておりますので,今後,どのような規定が設けられるか,注目されます。
      (2)   届出基準及び免除範囲の見直し
       企業結合の届出基準の算定対象範囲を,原則として企業グループ(企業結合集団)とし(法10条2項),国内売上高を届出基準とした。届出基準額を原則として,200億円超と50億円超に引き上げ,外国会社に対しても,国内会社と同様の届出基準に服することとしました(法10条2項,法15条の2第2項,法16条2項)。
 そして,届出免除の範囲を,親子会社間及び兄弟会社間のほか,いわゆる叔父甥会社間の合併等同一企業グループ(企業結合集団)内の企業再編まで拡大しました(法15条2項,法15条の2第2項,法15条の3第2項,法16条2項の各但書)。
   4  その他改正点  
     (1)  海外当局との情報交換に関する規定の導入
       海外当局に対する情報提供の根拠規定を整備し,情報提供の条件として,相互主義,秘密性担保,目的外使用の禁止,刑事手続への使用制限を明定しました(法43条の2)。ただし,この規定は,従前,運用ベースで行われていたものに法的根拠を与えたものに過ぎないとも評価されており,実務上の重要性は低いものと思われます。
     (2)  利害関係人による審判の事件記録の閲覧・謄写規定の見直し
       東京高判平成18年9月27日は,公正取引委員会は,法律上の規定なくして審判の事件記録の閲覧・謄写の範囲を制限することはできない旨,判示しました。
 同判決が確定したことを受けて,違反行為と関係のない事業者の秘密や個人情報などの第三社の利益を害するおそれのあると認めるときその他正当な理由がある場合には,公正取引委員会が当該部分の開示を制限できる旨明定しました(法70条の15)。
     (3)  差止訴訟における文書提出命令の特則及び秘密保持命令の導入
        不公正な取引方法にかかる差止請求訴訟においては,帳簿書類等の違反行為の主張・立証にかかる証拠が,民事訴訟法220条の文書提出義務の除外規定に該当しますが,提出を求める必要性が高いため,文書提出を拒む正当な理由がある場合を除き,文書提出命令に基づき,文書の提出を求めることができることとなりました(法83条の4)。
 上記文書提出命令の特則と併せて,秘密保持命令等の規定が導入されました(法83条の5から7,法94条の3)。
     (4)   損害賠償請求訴訟における求意見制度の見直し
       独禁法25条訴訟における裁判所の公正取引員会に対する求意見制度につき,現行法においては,義務とされておりましたが,裁判所の裁量によるものとなりました。これは,公正取引委員会の意見(損害に関する)については,裁判所にとってあくまで参考意見に過ぎず,義務的にする必要性がないことから,裁判所の裁量に委ねられることとなりました。
     (5)  職員等の秘密保持義務違反にかかる罰則の引き上げ 
       公正取引委員会の職員に関する秘密保持義務違反にかかる罰則を1年以下の懲役又は10万円以下の罰金から1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に引き上げられました(法39条,法94条の3)。
     (6)   事業団体届出制度の廃止
       事業者団体の違反行為を監視するためいの事業者団体届出制度は,費用対効果に問題があり,必要性に乏しいと考えられ,廃止されました(法8条2項から4項)。
 第3 今後の動向   
   1  公正取引委員会規則に関する改正  
      前述しましたが,今般の改正に伴い,従前の規定が大きく改訂されました。そのため,公正取引委員会規則についても,改正の必要性が大きくなり,改正案につき,公正取引委員会が既に公開し,かつ意見募集しております(「独占禁止法改正法の施行等に伴い整備する公正取引委員会規則案等に対する意見募集について」)。
   2  審判制度の見直し 
     現在の審判制度は,平成17年改正法によって制定されたもので,公正取引委員会が,勧告・審判手続を経ることなく,課徴金納付命令や排除措置命令等の行政処分を行い,当事者においてその行政処分に不服がある場合には,行政処分の当否を公正取引委員会の審判手続において判断する,という制度設計になっております。
 かかる制度の場合,早期の事件処理が可能であり,公正取引委員会のコスト削減につながるというメリットがある反面,当事者が自らの主張・反論する機会を十分に与えられる前に,行政処分の効力が生じてしまい,当事者の手続保障の点で問題があります。
 実際,欧米諸国では,日本のように行政庁が審判手続を行う制度設計になっている国は稀であり,処分に不服がある場合には,裁判所が判断する制度設計になっている国が一般的です。
 そのため,そもそも,審判制度自体を廃止するという方向で議論が進んでいます(平成21年改正法に関する衆・参両経済産業委員会決議)。

 (参考文献)
 ・公正取引委員会ホームページ http://www.jftc.go.jp
  「独占禁止法改正法の施行等に伴い整備する公正取引委員会規則案等に対する意見募集にういて」
  「『排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針』(原案)に対する意見募集について」
  「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の成立について」
  「『私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案』の国会提出について」 など

 ・「平成21年改正独禁法のポイント」(伊藤憲二、宇都宮秀樹、大野志保 著/商事法務)

 

一覧に戻る

リーガルトピックス(Legal topics)