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リーガルトピックス

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買い物の際に店内で転んで怪我をしたときは、誰の責任になるの? - 「レタス事件」、「天ぷら事件」及び「濡れモップ事件」の比較 - (弁護士 相内真一)

1  スーパーマーケットの店内で転倒して左肘を骨折した男性がスーパーマーケットの経営者に対して、1億円以上の損害賠償を求めていた事件について、約2180万円の賠償を認める判決が言い渡されました(2021年7月28日東京地裁)。野菜売り場でサニーレタスの水が垂れて床が濡れていたことが
転倒の原因であるとされました。以下、レタス事件といいます。レタス事件の判決に対して、スーパーが控訴したかどうかは不明ですが、認容額が高額ですので、控訴した可能性が強いと思われます。尚、判決では過失相殺には触れられていないようです。
従来、同種事件は何件か公表されていますが、判決で認容されていた額は、過失相殺の法理の適用もあって、比較的少額で、1000万円を超えるような認容額は見当たりません。
しかし、東京高裁は、2021年8月4日、同じくスーパーでの転倒事件について、請求額の約4割である約57万円の支払いを命じていた東京地裁の判決を破棄し、請求を全て棄却しました。「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する」という主文で、スーパー側の全面逆転勝訴でした。転倒の原因は約10㎝四方のかぼちゃの天ぷらを踏んだことにありました(靱帯損傷等の怪我)。以下、天ぷら事件と言います。

2  上記2件の先例的な判決として、約20年前に言い渡された高裁判決があります。
コンビニの店内で、店舗経営者(フランチャイジー)がバケツで水を絞った濡れモップで床を拭いたものの、乾拭きをせず自然乾燥に任せていたところ、靴底が減っていた革靴で、且つ両手がふさがった状態で店内に入った人物が滑って転倒した事案です(以下、濡れモップ事件と言います)。平成13年7月31日、請求額1026万円余の内、大阪高裁は、過失相殺を5割としたうえで、115万円余の支払いをコンビニ側に命じました。尚、支払いを命じられたのは、フランチャイジーではなくフランチャイザー(いわゆるフランチャイズ本部)であり、この点の論理構成も興味があります。
濡れモップ事件の判決理由の中で、以下の部分か注目されます。

本件のような店舗は、年齢、性別職業等が異なる不特定多数の顧客に店側の用意した場所を提供し、その場所で顧客に商品を選択購入させて利益を上げることを目的としているのであるから、…信義則上の義務として、不特定多数の日常ありうべき服装、履物、行動等、例えば靴底がすり減っていたり、急いで足早に買い物をするなどは当然の前提としてその安全を図る義務がある。・・・・店舗側は水拭きをした後に乾拭きをするなど、床が滑らないような状態を保つ義務を負っていた。

金儲けをするんだから、事故が起これば、全てのケースで店側が責任を負うべきであると言っているようですが、認容金額が請求金額の約1割ですので、「双方の顔を立てようと試みた和解的判決」のようにも見えます。

3  前述の天ぷら事件の一審判決では、濡れモップ事件で明記された上記の「信義則上の義務」を理由として、57万円余の損害賠償を命じてします。
しかし、天ぷら事件の高裁判決では、一般論として店側の信義則上の義務の存在は否定しなかったものの、
天ぷらが落ちていたのはレジ前の通路で利用客から発見しやすい状態だった事実、
落下物の苦情が、事故発生前になかった事実、
事故の直前に別の利用客が天ぷらを落とした可能性が強いこと等、
を認定の上、「従業員が巡回等で安全確認をする法的義務」は無いと結論し、請求そのものを棄却しました。因みに、消費者庁では「店舗内の転倒事故防止を呼び掛ける文書」を作成していますが、その中でも「レジ付近の落下物による転倒の危険」は言及されていなかったそうです。

4  ではレタス事件はどうでしょうか?
レタスの販売に際して、なぜ水がかかわってくるのかというと、それには理由がありました。
以下はネット中で見つけたレタス販売にかかわった経験者の書き込みです。

『キャベツや白菜のアブラナ科とは違ってレタスはキク科だが球レタスでも葉レタスでも切り口か
ら白い乳液状の汁が出るがこれをしっかり洗い流さないと切り口はおろか汁が付いた葉っぱまで赤くなって痛むのが早くなる出荷の際に洗って市場に届いてるが店に到着した時点で既に切り口が赤くなってるので店のバックヤードで薄く切ってまた出て来る汁を洗ってるキャベツや白菜なら大した変色はしてないがテレビなどで新鮮な野菜の見分け方をやってたりしてレタスの切り口が赤く変色してると売れないから切り口をまた店で並べる時に切ってるんだよ。』
(引用:5ちゃんねる 【裁判】買い物中にサニーレタスの水で転倒 店に2100万円余の賠償命じる 東京地裁 [oops★] (5ch.net)  167
( https://asahi.5ch.net/test/read.cgi/newsplus/1627471917/

つまり、床の水濡れは、レタス販売のための店側の行為によって生じていたわけです。店側が利益を上げるために床を濡らせて滑りやすい状況を作った以上、その状況を改善すべき義務が店側にあるとしたのはやむを得ないとも言えます。
天ぷら事件では、店舗利用者(お客さん)が、天ぷらを落としていったわけで、落としてしまったことに店側の責任はありません。前述の消費者庁の見解を合わせて勘案すると、そのようなことまで予想して、店内を巡回して「落ちている物は無いかどうか点検して回る義務」まで、店側に負わすべきではないという判断です。
滑りやすい原因を作出したのが誰かということが両事件の結論を左右したようです。
前述の濡れモップ事件の判断の中の、「・・・・不特定多数の日常ありうべき服装、履物、行動等、例えば靴底がすり減っていたり、急いで足早に買い物をするなどは当然の前提としてその安全を図る義務がある。」 という部分の考え方はそのままとしても、店側の注意義務のレベルを、具体的適用に際して、相当限定的に解釈している模様です。

5  では以下のケースはどうでしょうか?
昔は、店舗の入り口に鍵付き又は鍵無しの傘立てが置いてありました。しかし、いつのころからか、店頭に傘袋が用意されていて、傘袋の利用を奨励するポスターなどが見えやすいように掲示され、店舗利用者は、入店に際して、濡れ高さを傘袋に差し込んだ上で店内にそれを持ち込んで買い物をすることが多くなりました。
もし、傘袋を利用することなく、濡れた傘をそのまま店内に持ち込むお客さんがいて、その傘からの水滴によって床が濡れて滑りやすくなり、濡れた部分で滑って転倒した店舗利用者がいた場合、店側に責任はあるのでしょうか? 裁判官の考え方次第?いえいえ弁護士の腕次第かもしれません。

以上

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