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監査等委員会設置会社制度への移行 (弁護士 礒川剛志)

1 制度導入の経緯
監査等委員会設置会社制度は平成27年5月施行の改正会社法で初めて導入された制度である。平成27年6月19日付日本経済新聞によれば、6月の株主総会で監査等委員会設置会社に移行する上場企業の数が200社に迫るとのことである。

従来、上場企業の多くは監査役会設置会社であった。すなわち、取締役会とは別の機関として常勤監査役及び2名の社外監査役によって構成される監査役会が設置されていた。

しかしながら、かかる日本独自の制度である監査役会制度に関しては、監査役は代表取締役を含む業務執行者の選定及び解職の権限を有しておらず、また、取締役会の決議における議決権を有していないことから、その監査・監督機能の強化には限界があるとの批判が主に海外からなされていた。

そのため、近年、業務執行者に対する監督を実行的に行うためには取締役会の決議において議決権を有する社外取締役が必要であるとの議論がなされてきた。平成27年5月施行の改正会社法では、社外取締役を選任しない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由の株主総会における説明義務が新設され、社外取締役1名の選任が事実上義務付けられた。さらに平成27年3月15日に公表されたコーポレートガバナンス・コード原案では独立社外取締役2名以上の活用が言及されている。

ところで、日本企業(監査役会設置会社)の場合、既に2名以上の社外監査役の選任が義務付けられており、社外監査役に加えて社外取締役を選任することは企業側からすれば重複感や負担感が強い。もともと海外から社外取締役の導入のプレッシャーを受ける中で日本独自の社外監査役制度を導入してきたわけであるが、社外監査役では不十分であるとの批判を受け入れ、結局、社外取締役を導入することにした結果、社外監査役+社外取締役という“屋上屋を架す”ような機関設計になってしまったと言える。

そこで改正会社法において、業務執行者に対する監督機能を強化することを目的としつつ、監査をする者が業務執行者の任命を含む取締役会の決議における議決権を有するようにし、その一方で重複感や負担感を回避するための方策として新たな機関設計を認めたのが監査等委員会設置会社である。

2 監査等委員会設置会社の概要
監査等委員会設置会社には監査役及び監査役会は存在しない。監査を行うのは、取締役3名以上かつその過半数が社外取締役で構成される監査等委員会である。監査等委員は監査を行う一方、取締役である以上、取締役会の議決権を有する点において従来の監査役とは異なる。

監査等委員会設置会社においては、従来の監査方法(監査役が自ら会社の業務・財産の調査等を行う方法)は想定されておらず、企業の内部統制システムを利用した組織的監査が前提となっている。すなわち、監査等委員会設置会社に移行する企業については特に組織的監査が実現可能な内部統制システムが充実していなければ監査等委員会は機能しなくなってしまう。

また、監査等委員会は業務執行者を含む取締役の人事(指名及び報酬)について意見を述べることができるとされており、また、監査等委員は取締役会における議決権を有することから、監査等委員である社外取締役には監査と監督の両方の役割が求められている。

3 監査等委員である社外取締役への就任に際しての注意
今般の監査等委員会設置会社への移行に際しては、従来の社外監査役が監査等委員である社外取締役に“横滑り”することができる。すなわち企業側からすれば、新たな社外取締役候補を探すという手間を掛けずに2名の社外取締役を確保することができるという現実的なメリットがあるわけである。

従来、社外監査役として取締役会に出席してきた人は、今まで社内取締役間の議論に対して、違法性監査の観点から稀に意見を述べる程度だったのではないだろうか。当該企業が監査等委員会設置会社に移行し、監査等委員である社外取締役に就任した場合は、議案の違法性はもとより、その妥当性も含め議論に参加することが常に求められ、業務執行の意思決定に関与すること、及び他の取締役への監督という新たな役割が期待されることに注意が必要である。

参考資料
・「一問一答 平成26年改正会社法」 法務省大臣官房参事官坂本三郎著(商事法務)
・「平成26年会社法改正と社外取締役」 自由と正義2014年12月号41頁(神田秀樹教授)
・「コーポ―レートガバナンス・コード原案」 コーポレートガバナンス・コード策定に関する有識者会議

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