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新築家屋について、固定資産税及び都市計画税を賦課されるのは何時からか

弁護士 村上智裕

平成26年12月15日更新

 “新築家屋について、固定資産税及び都市計画税を賦課されるのは何時からか”が問われた事件がありました。平成26年9月25日に最高裁判決(平成25年(行ヒ)第35号固定資産税等賦課取消請求事件)が出ておりますのでご紹介します。

 事実経過
   最高裁判決によると事案の経過は次のとおりでした。
  (1)  被上告人の方は、平成21年12月7日、S市において家屋を新築し、所有権を取得した。
  (2)  平成22年1月1日の時点では、本件家屋については登記されておらず、家屋補充課税台帳(いわゆる固定資産税課税台帳のこと)における登録もされていなかった。
 平成22年10月8日、本件家屋につき、所有者を被上告人として、登記原因を「平成21年12月7日新築」とする表題登記がされた。
(なお、以上の被上告人による登記には問題はありません。新築建物の所有権を取得した者は、所有権取得の日から1か月以内に表題登記を申請すれば足ります(不動産登記法47条1項)。)
 S市長は、平成22年12月1日、本件家屋について、平成22年度の家屋課税台帳に、所有者を被上告人、建築年月日を平成21年12月、新増区分を新築とするなどの所定の事項の登録をした。
  (3)  S市長は、平成22年12月1日、被上告人に対し、本件家屋に係る平成22年度の固定資産税等の賦課決定処分をした。
   以上のように、この件では家屋が新築されたのは平成21年12月7日でしたが、平成22年1月1日の時点では登記されておらず、固定資産税台帳にも登録されておりませんでした。
 かような事実関係において、被上告人が平成22年度の固定資産税及び都市計画税の納税義務者にあたるかどうかが争われたのがこの裁判です。
 新築家屋の納税義務者について、市側は、賦課期日(平成22年1月1日)現在において家屋が完成しているか否かによって判断されるべきと主張したのに対し、被上告人側は、賦課期日現在の登記簿ないし固定資産税台帳の記載によって判断されるべきと主張していました。

 訴訟経過  
   最高裁判決に至るまでの訴訟経過は次のとおりであり、一審、二審で判断が分かれておりました。
  (1)  一審:さいたま地方裁判所(平成23年(行ウ)第19号)
     「賦課期日現在において現に課税客体として存在する本件家屋の賦課期日現在における所有者である原告は、平成22年度の固定資産税の納税義務者として納税義務を負うものというべきである。」として、市の賦課処分の取り消しをもとめた請求を棄却。
  (2)  二審:東京高等裁判所(平成24年(行コ)第89号)
     「控訴人は、平成22年度の賦課期日である平成22年1月1日において、本件家屋の登記記録に所有者として記録されたり、家屋補充課税台帳に登録されていた者ではないのであるから、控訴人が343条1項及び2項前段の規定に基づいて本件家屋に係る同年度の納税義務を負う者ではないことは明らかである」として、一審判決を取り消し、控訴人の請求を認容。

   このように一審、二審で判断が分かれたのは、地方税法343条1項2項前段の規定(※)の捉え方に相違があったためです。
 同規定、特に同条第2項前段が、納税義務者たる「所有者」について、「登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう」としていることについて、一審が“所有者判定の基準として課税技術上採られた措置であり、課税期日現在における登記簿への登記又は家屋補充課税台帳への登記を要求する趣旨のものではない”と捉えたのに対して、二審は、“同条はあくまで課税要件を定めたものであるところ、同項には何らの留保も置かれていない以上、同条同項の文言にしたがった判断すべきである(すなわち、この件で課税するためには、平成22年1月1日において、家屋の登記記録に所有者として記録されたり、家屋補充課税台帳に登録されていることが必要)”と捉えておりました。

 最高裁の判断
   以上のような経過で持ち込まれた本件について、最高裁は、二審判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却する判断をしました(つまり、市側の勝訴です)。
 最高裁は、同判決において、地方税法343条1項2項前段の規定の捉え方について、「法は、固定資産税の納税義務の帰属につき、固定資産の所有という概念を基礎とした上で(343条1項),これを確定するための課税技術上の規律として、登記簿又は補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者が固定資産税の納税義務を負うと定める(同条2項前段)一方で、その登記又は登録がされるべき時期につき特に定めをおいていないことからすれば、その登記又は登録は、賦課期日の時点において具備されていることを要するものではないと解される。」「以上によれば、土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記又は登録されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当である。」と判示しました。

 もともと、一審の判断に対しては“課税要件の文言を離れた解釈ではないか”、二審の判断に対しては“表示登記を遅らせて遡って建築年月日を登記する方法で租税回避ができるのではないか”との懸念がありました。
 今般の最高裁判決は、かような一審、二審が抱えていた懸念を踏まえつつ、現行法の仕組みを前提に固定資産税の趣旨に合致した判断を行ったものとして、得心がいくものであると思われます。
  
 なお、今回の最高裁判決は“新築家屋”に関するものです(厳密に言えば、“賦課期日の時点において登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がなされていない場合”に関するものです)。例えば、既存建物のように“賦課期日の時点において既に登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がなされている場合”については、“当該登記又は登録された者が当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う”という従前の取り扱いに変更は生じません。

  ※ 地方税法第343条  
   1  固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は100年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
   2  前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第2条第2項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録されている者をいう。(以上、前段)
                                                                    

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