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民法改正に関する要綱仮案について

弁護士 寺中良樹

平成26年9月11日更新

 法務省法制審議会(法制審)民法(債権関係)改正部会は、平成26年8月26日の部会において、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」を、おおむね、とりまとめました。
日本経済新聞( http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H0K_W4A820C1EA2000/ )によると、法制審は来年2月に法相に正式に答申、法務省は通常国会に民法改正案を提出する方針である、とのことです。
 要綱仮案中、国民生活に直接関係しそうな部分については、既に新聞各紙に詳報されており、ウェブを見ても、さまざまな専門家による解説がされていることが見えます。若干、「今さら感」はあるのですが、私が注目している部分をいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。

 (時効について)
 現行民法では、原則的な消滅時効は、権利を行使できるときから10年です(166条1項、167条1項)。
 要綱仮案では、これに加え、「権利を行使できることを知ったときから5年」という基準が加わることになります。一般の債権で、権利を行使できることを知らない、ということはあまりありませんので、この基準が加わることにより、時効期間はかなり短くなる、という感覚があります。
 また、現行民法では、原則10年のほかに、いくつかの短期消滅時効の定めがあります。たとえば、年払いの地代が5年、医師の報酬が3年、弁護士報酬が2年、ホテルの宿泊料が1年といったものです。これらの規定は廃止され、上記の原則に統一されることになります。もっとも、民法以外で定めている短期消滅時効は、商事債権(5年、商法522条)のほかは、同時に手を付けるというわけではないようです。特に、労働債権(退職金以外は2年、退職金は5年。労働基準法115条の2)については、これだけ短期で残す合理的な意味はないと思うのですが、これは別途考えるということなのでしょう。

 これらとともに、不法行為による損害賠償請求権の時効(知った時から3年、または、不法行為から20年。724条)が、双方とも時効とされることを、明らかにするようです。
 これまでは、「20年」の方は、時効ではない、除斥期間という制度であるとされていました。そのため、こちらの方には、権利消滅の主張が信義則に反するとか、権利濫用という主張が、(原則的に)できないこととされていました。その他、除斥期間には、時効のような中断や停止もありませんでした。これが時効とされることにより、損害賠償請求を行う者の権利が、より強くなることになります。

 また、生命又は身体の侵害による損害賠償の請求権については、「知った時から3年」の部分が、5年とされることになりました。これは、交通事故などの場合に影響が大きな改正だと思います。裁判への躊躇や法律の無知のために、「知った時から3年」以内に時効中断措置を取ることができなかった事案は、かなりあると思います。これが5年に伸びるのは、実務上の影響があるところだと思います。

(法定利率について)
 現行民法では、法定利率は年5分(5パーセント)とされています(404条)。
 要綱仮案では、法定利率は、改正当初は年3パーセントであり、3年ごとに、1パーセント単位で見直すことになります。見直し方についても法律で定められ、銀行の短期貸し付けの平均利率を基準として、法務大臣が告示する割合となります。
 長期間の法定利率を請求する場合、期間によって利率が変わるわけではありません。基本的には、利息が生じた最初の時点における法定利率によって、固定されます。したがって、住宅ローンの変動金利とは、少し異なるイメージを持つ必要があります。
 また、現行商法では、商行為によって発生した債務の法定利率は年6パーセントですが、これは、民法の法定利率に統一されます。

 また、将来の逸失利益などの計算を行うために必要な「中間利息控除」については、これを法定利率によって行うことが、明記されます。これまでも、交通事故の損害賠償では、中間利息控除を法定利率によって行うべきとするのが、判例であり実務でもありましたが、これを明文化するものです。新聞記事などでは、民法改正により「保険金の受取額が増える」などとしているものがありますが、それは、法定利率が少なくなると、「中間利息控除」の額が少なくなるからです。

 ただし、法定利率は、約定がない場合の遅延損害金の計算基準でもあります。法定利率が下がるということは、支払いを遅延された場合でも、遅延損害金が少なくなる、ということです。支払いを遅延する者に対する制裁的な効果が薄くなることになります。私個人の考えとしては、遅延損害金の計算基準となる利率と、中間利息控除の基準となる利率は、別でも良いのではないかと思っていました(法制審でも、そのような議論もあったようです)が、結論としては、現在の判例実務どおり、両者は同一になりました。

 (詐害行為取消権について)
 法律実務家から見て、かなり大きな改正となると思われるのが、詐害行為取消権(民法424条)です。
 詐害行為取消権というのは、債権者が債務者の行為を、一定の要件の下で取り消すことができる権利です。現行民法は、単に「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為」という程度しか規定していないため、実際にどのような場合に取り消すことができるのか、さまざまな議論があったのですが、要綱仮案では、かなり細かく規定を整えました。特に、詐害行為取消訴訟を起こした場合は、債務者に訴訟告知をしなければならないとしていること、その結果、取消を認めた判決は債務者(及びその全ての債権者)に対して効力を有するとしていることが、目を引きます。

(連帯保証について) 
 要綱仮案では、事業のための貸金等の保証について、かなり細かい手続規定が定められました。
 具体的には、
 ・ 保証契約の前に、保証人となろうとする者が、公正証書で、保証債務を履行する意思を表明しなければならない。
 ・ この公正証書の作成の際には、法定の事項を、保証人となろうとする者が、公証人に口授しなければならない。
 また、公証人は、その口述を筆記し、これを保証人となろうとする者に読み聞かせ、又は見せなければならない。
とされました。
 ただし、会社の代表者や取締役、支配株主、共同事業者相互の保証などについては、このような規定を適用しないこととされました。

 このような手続の変更については、実務上の影響は大きく、金融機関は、この手続をどのように定型化するか、頭をひねることになるものと思われます。もっとも、これらの改正は、もっぱら手続に関するものだけであり、実体的に、連帯保証を制限する内容ではありません。「知らない間に連帯保証の印鑑を押されていた」という、過去には時々見られた保証否認の事例を減らす効果はあるのでしょうが、あまり、第三者による連帯保証そのものを減らす効果は、ないのではないかと思います。
 ちなみに、この規定は、事業のための貸金等であれば、金融機関(銀行)に限らず適用されることとなることに、注意する必要があります。

 (以上)
                                                                    

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