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脳・心臓疾患の労災認定について

弁護士 水口良一

平成26年5月8日更新

 前回のリーガルトピックスでは、過労自殺等の精神障害に関する労災請求についての労災認定の基準の概要をご説明させていただきました。
 今回は、これに引き続き「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」(平成13年版)の概要をご説明したいと考えます。

 脳・心臓疾患は、血管病変等が長い年月の日常生活の営みの中で発症するものですが、仕事が特に過重であったため、血管病変等が著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があります。
 このような場合には、労災補償の対象となると考えられます。

 対象となる疾病は次のとおりです。  
    ●脳血管疾患    脳内出血(脳出血)・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症
   ●虚血性心疾患等    心筋梗塞・狭心症・心停止(心臓性突然死を含む。)・解離性大動脈瘤
     
認定要件
 次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。
  (1)  発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)。
  (2)  発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)。
  (3)  発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)。
     
 「業務による明らかな」とは、発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていることを言います。 
  「過重負荷」とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいいます。

@  異常な出来事とは
    ・・・遭遇した出来事が下記に掲げる異常な出来事に該当するか否かによって判断されます。なお、評価期間は、発症直前から前日までの間となります。
    @  極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態(例:業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合)
    A  緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態(例:事故の発生に伴って、事故処理等に携わり、著しい精神的負荷を受けた場合)
    B  急激で著しい作業環境の変化(例:特に温度差のある場所への頻回な出入りなど)

A  短期間の過重業務とは
    ・・・日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。)に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいいます。なお、評価期間は発症前おおむね1週間です。

 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、(1)発症直前から前日までの間について、(2)発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合には、発症前おおむね1週間について、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。

 具体的な負荷要因は、次のとおりです。

・労働時間・不規則な勤務・拘束時間の長い勤務・出張の多い業務
・交替制勤務・深夜勤務・作業環境(温度環境・騒音・時差)・精神的緊張を伴う業務

B  長時間の過重業務とは   
    ・・・恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがあります。このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断されます。なお、評価期間は発症前おおむね6か月間です。

 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。
 具体的には、労働時間のほかAの短期間の過重業務でみた具体的な負荷要因(不規則な勤務・拘束時間の長い勤務・・等)について検討されることとなります。
 疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増し、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

     発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

     発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
 
 以上を踏まえて判断されることとなります。

 厚生労働省の労災認定の認定基準は以上のとおりですが、前回も述べましたとおり、長時間労働については、精神障害発病の原因となるのみならず、脳や心臓疾患の原因になると言われています。
長時間労働の弊害については、自分や従業員の健康を守るためにも、十分に理解をしておく必要があると思います。
以上 
                                                                    

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