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連帯保証の書面性
弁護士 寺中良樹
平成25年10月1日更新
もし私が法律相談で、「連帯保証を頼まれたのですが、しても良いでしょうか?」と聞かれたら、「特別な事情がない限り、してはいけません。連帯保証は自分が借りるのと同じことです。」と答えます。それでもまだ世の中には、善意で連帯保証をされる方が、かなりおられるようです。 ある相談は、下記のようなものでした(わかりやすくするために、実際の事案を少し変えています)。 |
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・ | 知人が家を借りるのに、連帯保証人になることを承諾した。 | ||||
・ | しかし、家賃や保証金、その他賃貸借の内容については、何も聞いていなかった。 | ||||
・ | 「平成●年●月●日付けの賃貸借契約の連帯保証をします。」という1枚ものの書類に署名したが、その「賃貸借契約」は見たことがない。 | ||||
・ | その後、知人が家賃を長期間滞納し、その請求が自分のところに来た。 |
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この事案は、連帯保証に承諾している以上、その責任は免れられないように見えますが、実際は、「保証債務の書面性」との関係で、微妙な問題があります。 民法上、保証債務が成立するためには、保証の意思表示を書面で行うことが必要とされています(民法446条2項)。この条項は、平成16年の民法改正で新設されたものですが、ここにいう「書面」とは、どのようなものでなければならないか、という問題です。 この点に関して、公刊されている裁判例は、平成24年1月19日東京高裁判決(金融法務事情1969号100頁)のひとつしかないようです。この裁判例では、連帯保証人として請求された者が、自分で保証人署名押印をしたものではなく、また誰かに保証人の署名押印を代行して保証契約書を作成することを指示したり、それを承諾していたとも認められないような場合、口頭で保証に承諾した旨を回答していたか否かにかかわらず、書面によって保証をしたとは言えない、とするものです。 民法で保証の成立に書面が必要であるとされている以上、当然の判断のように見えますが、この裁判例で注目するべきは、理由の部分です。この裁判例では、理由として、次のように判示しています。 保証契約は,書面でしなければその効力を生じないとされているところ(民法446条2項),同項の趣旨は,保証契約が無償で情義に基づいて行われることが多いことや,保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことなどから,保証を慎重にさせるにある。同項のこの趣旨及び文言によれば,同項は,保証契約を成立させる意思表示のうち保証人になろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を慎重かつ確実にさせることを主眼とするものということができるから,保証人となろうとする者が債権者に対する保証契約申込み又は承諾の意思表示を書面でしなければその効力を生じないとするものであり,保証人となろうとする者が保証契約書の作成に主体的に関与した場合その他その者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で明確に保証意思を表示した場合に限り,その効力を生ずることとするものである。したがって,保証人となろうとする者がする保証契約の申込み又は承諾の意思表示は,口頭で行ってもその効力を生じず,保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面にその者が署名し若しくは記名して押印し,又はその内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより,書面を作成した場合,その他保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で上記と同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められる場合に限り,その効力を生ずるものと解するのが相当である。 |
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この裁判例を見ると、2つのことが書いてあるように見えます。 | |||||
1 | 自分で署名押印しなくとも、書面に連帯保証人として署名押印することを承諾していたり、指示していた場合は、「書面で連帯保証」したことになる。 | ||||
2 | ただ「連帯保証します」と書いた書面に署名押印するだけでは、「書面で連帯保証」としたとは言えない。「保証債務の内容が明確に記載された」ものでなければならない。 | ||||
「保証債務の内容が明確に記載された」とは、具体的に、どのような書面なのでしょうか。前に書いたご相談にあった、「平成●年●月●日付けの賃貸借契約の連帯保証をします。」という書面は、「明確に記載された」書面なのでしょうか。そもそも、保証契約の成立のために書面が必要とされた趣旨に鑑みますと、その書面だけで、保証債務の内容がわからなければ、「明確に記載」とは言えないように思います。裁判でこれを争った場合、どうなるか、結論が読めない部分もあるのですが、少なくともひとつの争点にはなるのではないかと思います。 この裁判例は、連帯保証をしてもらう債務者にとっても、重要です。 よく見られるように、当事者が作成する契約書に「連帯保証人」欄があり、そこに署名捺印する方式であれば問題ないのですが、契約書以外の差入書方式で連帯保証をしてもらう場合は、差入書だけで契約の内容がわかるように、工夫しておくべきです(もとの契約書のコピーに、連帯保証の署名捺印をしてもらうのが、確実でしょう)。 |
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以上 |