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個人保証制度について
弁護士 礒川正明
平成25年9月13日更新
1. | 私は約25年前、大阪のある信用組合の顧問として、債権回収の仕事をしていました。当時の金融機関の貸し出し業務においては、まず、ほとんどすべてにおいて、「取引基本約定書」を徴収することになっていました。「取引基本約定書」は、信用組合との取引すなわち、証書貸付、手形貸付、当座貸越などすべての取引に適用されるとなっており、約定違反の場合はすべての債務につき期限の利益を失い、一括請求できることとなっていました。また、遅延損害金は年25.55パーセントとかなり厳しい内容となっており、さらに問題であることに、事業者の法人の代表者はもちろん、更にもう1名の連帯保証人が必要とされていました。 私は債権回収業務において、この基本約定書に基づき、事業者法人及び連帯保証人2名に対し、返済請求の訴訟を何百件と提起し、当然のごとく勝訴してきました。しかし、事業者の代表取締役の連帯保証人としての責任はやむを得ないとしても、もう一人の連帯保証人はあまりにも気の毒と常に感じていたのです。基本約定書作成後、数年経過すると、部外者であるもう一人の連帯保証人は連帯保証したこと自体を忘れていたり、事業者がそのような大きな負債をしていたなどとは想像もしていないケースが多くありました。そのような場合でも、基本約定書における連帯保証は根保証である為、法的にはその責任を負わざるを得ない結果となり、その結果、連帯保証人も連鎖倒産するようなケースもありました。 このような金融機関の融資における個人保証のあり方につき、本来は事業の将来性、収益性、返済能力などに注視し、融資を決めなければならないにも関わらず、安易に連帯保証人に頼る融資の仕方に対して、疑問視され、改善が求められ、議論されてきたのです。 中小企業の場合、法人と経営者である個人は一体であり、資産等が明確に区別されていない、財務基盤が強固でない、財務諸表の信頼性が十分でない等の理由から、経営者の個人保証は中小企業の資金調達の円滑化に寄与しているとの意見があります。この事から、中小企業の経営者が法人の融資に対し一定の保証を求められることはやむを得ませんが、経営者でない第三者に個人保証を求めることは、本来限定されるべきであると思います。 |
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2. | このため、平成16年の民法改正で、保証契約には書面が必要とされ、更に、個人が保証人となる貸金等根保証契約については、@保証人の責任の限度額(極度額)を定めなければならず、A保証の対象となる債務は一定の期間(最長5年、保証契約に定めのない場合3年)に発生したものに限られる、こととなりました。 |
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3. | 更に、平成23年には金融庁が「主要行向けの総合的な監督指針」「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を改定し、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」が明記されました。 本来の融資は前途の事業の実態把握を前提とし、安易に個人保証に頼らない融資を心がけるべきであり、金融庁の監督指針の改定はこの方向性を示すものであります。 |
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4. | 更に、法制審議会における近時の民法改正の議論でも、経営者以外の個人による根保証の禁止、裁判所が諸般の事情を考慮して個人保証人の責任を減免する制度、保証債務のうち過大な部分については履行の請求ができないこととする制度導入の是非などについて検討されています。このように、議論の方向性は個人保証に頼らない融資であり、保証人たる個人が一回の保証で再起不可能となるような過大な保証義務を負わせない、再チャレンジ出来る社会の必要性が求められています。 |
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5. | 突然、連帯保証債務の請求を受けた場合、保証契約の時期、経緯、説明責任の問題、保証の範囲、近時の保証に関する動向などから争える余地がある場合があります。 そんな時は、当事務所に相談してみて下さい。 |