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弁護士照会制度の運用に関する東京高裁平成25年4月11日付判決について

弁護士 相内真一

平成25年7月1日更新

 弁護士法第23条の2は、「1 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることが出来る。申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することが出来る。 2 弁護士会は、前項の規定による申出に基づき、公務所または公私の団体に対して必要な事項の報告を求めることが出来る。」と定めています。

 実務的には、電話会社に対する契約名義人の確認、相続財産たる預貯金があった場合に、相続人から依頼を受けた弁護士が金融機関に対して当該預貯金の残高や入出金の状況を問い合わせる場合、消防署に対して出火原因等を問い合わせるとともに消防調書の送付を求める場合等、数多くの場合に利用されており、弁護士にとって、極めて有用な訴訟資料の収集手段の一つです。
 しかし、この制度(以下、「23条照会」といいます)の根拠条文には、「当該弁護士会は・・・・・照会を求めることが出来る」と定めているものの、弁護士法では、照会を受けた側に対して、「照会に応じる義務」を規定していません。
 そのため、国税局その他公務所に対する照会については、国家公務員法等に基づく守秘義務を理由として拒絶されることも数多くありました。
 そして、公務所でなくとも、債権者代理人弁護士が、債務者の預貯金の調査のために、金融機関に対する照会を申し出ても、金融機関は、個人情報保護法や預金契約に内在する守秘義務を理由として照会に応じないのが通例でした。のみならず、そのような金融機関の運用を前提として、弁護士会段階で、23条照会の申出が事実上拒まれることも珍しくありませんでした。

 標記東京高裁の事案は、債務者の預金の調査のために23条照会が利用された案件です。
 この23条照会に対して金融機関が照会に応じなかったため、申出を行った弁護士の依頼者が金融機関に対して、「金融機関は23条照会に対して、当該弁護士会に対して回答義務があることの確認」と、「回答を怠ったことに対する損害賠償」を請求した事案です。
 この事件の一審判決は、確認請求のみ認め、損害賠償は棄却しました。控訴審の東京高裁は、いずれの請求も棄却しました。
 法律上明確な回答義務がないのに、回答義務を認めた一審判決は、極めて注目されます。というのは、個人情報保護法第23条では、本人の同意を得ずして第三者に情報開示できる場合として、「法令に基づく場合」という項目を挙げており、一審判決は、前記の弁護士法第23条の2を、個人情報保護法第23条所定の「法令に基づく場合」と認めたことになるからです。
 これまでの金融機関の実務では、23条照会に対して、「顧客(預金者)の同意がない限り、照会に応じない」ことを原則としてきました。しかし、この一審判決を前提とすると、従来の金融機関の実務上の取り扱いは否定され、「顧客の同意の有無」にかかわらず、照会に応じる義務があることになってしまいます。
 更に、照会に応じる際、事前事後に、照会に応じる(応じた)ことを、金融機関が顧客(預金者)に通知するか否かと言うことも大きな問題になります。というのは、仮に、多額の預金が現存している場合に、その通りに回答した場合であっても、その回答を受けた債権者(照会申出側の依頼者)が、差押えに着手するまでに、預金が払戻し等されてしまうと、当然のことながら、照会も差押えも実効性のないものになってしまいます。もし、金融機関が、照会に応じる(応じた) 旨、顧客に通知すれば、当然、顧客は差押え回避のために預金を払い戻すでしょう。現在の法令と判例のもとでは、金融機関は、払戻し請求を拒めません。そうすると、一審判決を前提として、23条照会と、その回答に基づく差押えとを実効あらしめるためには、金融機関は照会があったことも、照会に応じたことも、顧客に知らせるべきではないという方向に議論は進んでいくことになります。しかし、預金取引における金融機関の善管注意義務を抑え込んでしまうほど、弁護士法第23条の2が強力且つ上位の法律と評価できるかどうか、大いに疑問があります。尚、この点に関する、最高裁の判例は今のところ見当たりません。

 控訴審の東京高裁は、確認請求も損害賠償請求のいずれも棄却しました。
 その理由は、「金融機関が23条照会に回答すべき義務を負うとしても、その義務は、23条照会の申出人の依頼者に対しての義務ではなく、弁護士会に対する一般公法上の義務にすぎない」から、「金融機関は23条照会の申出人の依頼者に対して直接義務を負うものではない」「回答を拒絶しても23条照会の申出人の依頼者の個別具体的な権利を侵害していない」ので、「確認を求める利益は無いし、損害賠償も認められない」という内容です。ここでは、金融機関の回答義務に対して、真っ向からの判断はされていません。

 控訴審の判断は、結論的には、23条照会に対して、「顧客の同意がない限り、照会に応じない」金融機関の従来の取り扱いを容認しています。しかし、控訴審判決を前提として、弁護士会が義務を負うべき相手方(当事者)として登場してきた場合、どのような結論になるのかは、不明です。理屈だけのことであれば、「弁護士会に対する義務違反に基づく慰謝料請求」という組み立てもできないことはないからです。

 いずれにしても、最高裁の判断如何では、従来の金融機関の23条照会に対する取り扱いが変わる虞があり、その場合には、預金に関する約定も変更せざるを得ないということになり、実務に与える影響は小さくありません。
 今後、最高裁の判断が示された時は、再度、リーガルトピックスでご報告します。 
   以上
                                                                    

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