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導管袋地の問題について
弁護士 谷岡俊英
平成25年1月23日更新
四方を他人の土地等に囲まれており、他人の土地に水道管を設置しなければ水道等を導入できない土地(このような土地は学説上「導管袋地」と呼ばれていますので、以下でも「導管袋地」といいます。)の所有者から、「隣地を通らなければ水道管が引けないのに、隣地の所有者が水道管を引かせてくれない。」というご相談があります。近年は、宅地造成の段階でこのような問題が生じないように配慮がされているものの、まだ問題は多くあるようですので、ご説明させていただきます。 |
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1.水道管を引くために隣地を使用できるのか | ||
(1) 法律の明文規定 | ||
この点について、法律には明文の規定がありません。本来このような場合に対応するのは民法なのですが、民法は、上下水道が整備される以前の明治時代に作成されたものであるため、高地から低地への排水や通水に規定(民法220条)等はあるものの、対応する規定が設けられていないまま現在に至っています。なお、下水道については、下水道法11条1項があるのですが、同法は排水設備に限った規定であり、公共下水道が供用開始されたときにのみ適用があるようにも読めることから、同法を隣地に水道管を敷設することを認めた一般規定と解することはできません。 | ||
(2) 法的根拠及び要件 | ||
では、隣地に水道管を敷設することについて同土地の所有者の承諾がないと一切できないのかというと、そのようには考えられていません。 実務では、このような導管袋地の問題については、民法の高地から低地への排水や通水の規定(民法220条)等の相隣規定を類推適用することで解決を図っています。 その要件としては、@隣地使用を求める土地が導管袋地であり、A導管設置のために必要かつ合理的であり、隣接地に与える損害が最も少ない位置・方法である場合であれば、隣地に水道管を敷設することが認められます。 |
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2.給排水設備を使用することは認められるのか | ||
上記1.では水道管を引くために隣地を使用できるのかという問題でしたが、仮に隣地に既に給排水設備が設置されている場合、導管袋地の所有者は、隣地所有者に対して、この給排水設備を使用させるように求めることはできるでしょうか。 この点については、一定の要件を満たせば認められると判断した最高裁判所の判決があります(最判平成14年10月15日民集56巻8号1791頁)。 同最高裁判決では、@隣地の給排水設備の使用を求める者が所有する土地が導管袋地であること、A他人の設置した給排水設備をその給排水に使用することが他の方法と比べて合理的であること、Bその使用により、既存給排水設備に予定されている効用を著しく害するなどの特段の事情のないこと、の要件を満たせば、隣地に設置されている給排水設備を使用することができるとしました。 この判決によって、導管袋地の所有者は、隣地の所有者に対し隣地に水道管を敷設させることを求められるとともに、隣地の給排水設備を使用させることも求めることができることとなりました。 |
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3.いかなる場合でも隣地使用が許されるのか | ||
では、導管袋地の隣地所有者は、導管袋地の所有者の求めがあれば、いかなる場合でも水道管を敷設させたり、給排水設備を使用させたりしなければならないのでしょうか。 これについて、違法建築の建物所有者が隣地所有者に対して下水道管の敷設を求めた事案において、導管袋地の使用が違法であれば隣地の使用を求める権利自体が発生しないとする考え方もありました(最判平成5年9月24日民集47巻7号5035頁の第一審)。 しかしながら、最高裁は上記平成5年最判において、建物が建築基準法に違反して建築されたものであるため除却命令の対象となることが明らかなときは、建物所有者が違法状態を解消させ、確定的に建物が除却命令の対象とならなくなったなど、建物が今後も存続しうる事情を明らかにしない限り、隣地所有者に対して水道管の設置を求めることは権利濫用にあたると判断しました。 ここでは、最高裁は、いかなる場合であっても導管袋地の所有者に隣地の使用や給排水設備の使用する権利を認めるのではなく、一定の場合には権利濫用法理によって排斥することを明らかにしました。 この考え方は、下水道管敷設する場合のみならず、上水道管を敷設する場合や隣地の給排水設備を使用する場合にもあてはまるものと考えられますので、導管袋地に建物を建築する場合には十分注意が必要です。 |
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以上 |