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情報提供義務

弁護士 天野雄介

平成24年12月26日更新

 平成24年11月27日最高裁第三小法廷判決は、シンジケートローン(協調融資)のアレンジャー(主幹事)の参加金融機関に対する情報提供義務について、信義則上の情報提供義務違反があったとして不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
 本件では、@シンジケートローンのアレンジャーに参加金融機関に対する情報提供義務が存在するか、A本件で情報提供義務違反となる行為があったか、B借受人とアレンジャーの守秘義務との関係などが争点となっています。
   特に@については、
  ア 借受人とアレンジャーの間の契約関係は委任又は準委任関係にある
  イ アレンジャーと参加金融機関の間に契約関係はない
  ウ 情報の受け手である参加金融機関は融資の専門家である
  エ アレンジャーは情報提供(インフォメーション・メモランダムの送付)の際に、情報の正確性・真実性について一切の責任を負わな
   い旨を明言していること
などの状況で情報提供義務が発生するか否かという興味深い判例となっています。
 第一審(名古屋地方裁判所平成22年3月26日判決)では、参加金融機関の専門性を重視し、アレンジャーの情報提供義務を重大な情報であり特段の調査を要せず容易に判断し得る場合に限定的に解し、アレンジャーの責任を否定しました。
 第二審(名古屋高等裁判所平成23年4月14日判決)では、アレンジャーの情報提供義務について信義則上の義務があり、本件では情報提供義務違反が成立するとし、アレンジャーの責任を肯定しました。
 情報提供義務についてはアレンジャーの信義則上の義務を広く認める一方で、参加金融機関の専門性からアレンジャーに故意または重大な過失がある場合に限定し、本件では故意または重大な過失があるとしたものです。
 なお、高裁判決では、情報提供義務と守秘義務については情報提供義務が優先するとしています。
 そして、最高裁は、本件における情報がシンジケートローンに参加するか否かにとって重大な情報であることを認定した上で、当該情報は参加金融機関は知りえない情報であり、借受人がシンジケートローンの組成・実行手続の継続に係る判断を委ねる趣旨で当該情報をアレンジャーに告げていることから、参加金融機関は提供を期待するのが当然の情報であるとし、信義則上の情報提供義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
 アレンジャーという立場の二面性、すなわち、一方では借受人からアレンジャーフィーを受け取って業務を行う委任契約又は準委任契約の受任者の立場と、他方では、参加金融機関の取りまとめ役(エージェント)として参加金融機関のために業務を行う立場もある二面性から裁判所の判断が分かれることになった原因であると思われます。
 最高裁判決の田原睦夫裁判官の補足意見では、このような二面性について、重大な情報を借受人及びアレンジャーが知っていた場合には共同不法行為になる場合があり、そのような場合アレンジャーは借受人に対して、当該重大情報を参加金融機関に開示するように助言すべきであり、借受人が助言に応じない場合には、アレンジャーとしての受任契約を解約することが検討されて然るべきであろうとされています。
 今後、アレンジャーとしては、損害賠償リスクを回避するために、借受人に関する情報の融資契約における重要性を検討し、重要な情報については広く情報開示する必要があるという結論になるかと思われます。
 同様のシチュエーションは、例えばM&Aの際のアドバイザーにも当てはまるものです。
 M&Aの際に、売主側のアドバイザーは買主のデューデリジェンス(買収監査)を受け入れるのみではなく、売主側の不利益情報を積極的に開示する必要がある場面も想定されます。
 本件最高裁判決は、一般化できるほどの基準が示されておらず、アレンジャーの情報提供義務についても、どのような場合に存するのか、アレンジャーに過失しかない場合にも発生するのか(すなわち調査義務まで認めるのか)など不明確な点もありますが、様々な取引における仲介業者の説明義務の内容・範囲について示唆し、一定の基準を与える判例と考えられます。
                                                                    

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