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一票の格差と最高裁判所(つづき)

弁護士 村上智裕

平成24年12月3日更新

 野田首相の呼びかけに安倍自民党総裁が応じるかたちで11月16日、0増5減の「一票の格差」是正関連法が成立しましたが(これによれば、格差は2.3倍から1.8倍に縮小する見込みであるそうです)、12月16日施行予定の次の総選挙は、先の最高裁判決で合理性を疑問視された「1人別枠方式」は維持されたまま、また、(格差是正関連法は成立したといっても)実際には0増5減の区割作業も行われないまま、実施されることになりました。すなわち、次の総選挙は、最高裁判所が「違憲状態」と判断した状況下で行われる初めての総選挙です。
 この状況のもと、格差問題に取り組む弁護士グループ(2グループ)は、既に選挙差し止め訴訟を提起し、または、選挙投票日の翌日に選挙無効請求訴訟を提起することを明らかにするなど、その動きを活発にしています(なお、選挙の差し止め訴訟については後に却下されましたが、これは手続上の理由から却下されたものであり、今回の総選挙で生じる一票の格差について合憲であることを認めたものではありません)。
 
1 最高裁は「違憲状態」下の選挙をどのように審査するか
 このように次の総選挙は一票の格差についての憲法判断がなされることが避けられない状態にあるわけですが、現状が「違憲状態」であることは既に先の最高裁判決で判断されていますので、次のレベルの、「違憲判決」がなされるか(前回記事のレベル2の判断)、また、「選挙無効」と判断されるか(前回記事のレベル3の判断)、が注目されるところです。
 先ず、レベル2の判断においては、「“合理的期間”内において“是正”が行われたか」ということが判断のポイントとなります。
“是正”の観点から考えると、確かに、格差是正法を成立させた事実をもって、国会が是正のための努力を行ったと見ることも可能かもしれませんが、現実の格差は何も是正されておらず、“投票価値の平等の要求に反する状態”はまったく是正されなかった、という事実は曲げようがありません(そのように考えると、今般の是正法の成立は、せめてそれだけは行っておかなければ総選挙実施の正当性すら危ぶまれる、との考えから行われたものとの見方ができるかもしれません)。
 また、次に問題となる“合理的期間”ですが、この“合理的期間”については、そもそも期間の起算点をどこに置くのか、また合理的期間とはどれくらいの長さを指すのか等について、最高裁判所も具体的な考え方を示したことがないところです。そもそも合理的期間論については、「違憲と断ずるには躊躇される場合に、この理論を一種の緩衝材として、よく言えば柔軟に、悪く言えば無原則に操作しているといえよう」との評価もあり(安念潤司成蹊大学教授)、一票の格差問題、こと“投票価値の平等の要請にかなう立法措置をとらない国会”に対して強い姿勢を見せ始めた昨今の最高裁判所の態度を斟酌したとしても、再度、合理的期間論によって「違憲状態」のレベル1の判断をとるという可能性がまったくないわけではありません。
 
2 選挙無効の可能性
 選挙無効というのは、文字どおり、実際に行われた選挙を無効と判断するものですが、仮にそのような判決が出された場合の国政の安定・継続性に与える判決の影響力には図り知れないものがあります。そこで、仮に、次の総選挙が「違憲状態」を超えて、「違憲」であるとされても、行政事件訴訟31条が定める事情判決の法理(当該処分が違法であっても、当該処分を取消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合には、諸般の事情に照らして当該処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められる限り、裁判所においてこれを取り消さないことができるという法理)を用いて、選挙自体は無効とはしないであろう、というのが一般的な見方であると思います。
 ただ、先にも触れたように、昨今の最高裁判所は、“投票価値の平等の要請にかなう立法措置をとらない国会”に対して強い姿勢を見せており、このところの最高裁判決には選挙無効の可能性について言及した(反対)意見も付されておりますので、一部抜粋となりますが、以下、紹介します。

 ・平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙に対する最高裁判決 田原裁判官の(反対)意見
「なお、もし平成25年参議院議員通常選挙が現行法の枠組みの下で行われるならば、選挙無効の判断をもって対処すべきものと考える。」
・平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙に対する最高裁判決 須藤裁判官の(反対)意見
「本件選挙については、事情判決の法理を適用して違法宣言にとどめるのが相当であるが、平成25年選挙に至ってもなお選挙制度の仕組みの改変につき見るべき取組も見出せない状態であるならば、選挙無効訴訟の提起された選挙区に限っては選挙を無効とせざるを得ないというべきである。」
・平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙に対する最高裁判決 大橋裁判官の(反対)意見
「なお、将来において事情判決の法理が適用されずに選挙無効判決が確定した場合、その判決の対象となった選挙区の選挙が無効とされ、当該選挙区の選出議員がその地位を失うことになる以上、その欠員の補充のための選挙が必要となるところ、その具体的方法については立法上の工夫により憲法上支障なく実施することが可能であり、立法府としては、本件定数配分規定の速やかな是正に加え、上記の方法についての立法措置についても検討を始めることが今後必要となるものと思われる。」
・平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙に対する最高裁判決 宮川裁判官の反対意見
「そして、さらに、今後、国会が速やかに1人別枠方式を廃止し、選挙権の平等にかなう立法的措置を講じない場合には、将来提起された選挙無効請求事件において、当該選挙区の結果について無効とすることがあり得ることを付言すべきである。」

 12月16日の総選挙についてはそこまでの離合集散の動向や、選挙結果も注目ですが、選挙後の最高裁の判断にも注目です。
 おわり
                                                                    

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