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武富士代表者に対する横浜地裁 平成24年7月17日判決のご紹介

弁護士 寺中良樹

平成24年9月10日更新

▲ 消費者金融の武富士は、いわゆる過払い金返還請求の負担が原因となって、平成22年9月に会社更生法の適用申請を行い、経営破綻しました。
 更生計画案に基づく第1回の配当は、平成24年1月から順次行われており、配当率は3.3%とのことです。また、第2回の配当が予定されているようですが、それほど多額の配当がなされる見込みはないようです。
 武富士の顧客の中には、利息制限法に基づく引き直し計算後の過払い金の額が百万円の単位になる方も少なくありませんが、そのほとんどは、会社からの返還を得られないままという結果になっています。
 これらの顧客の中で、武富士の代表者に対する個人責任を追及した方がおられ、平成24年7月17日に、横浜地裁が、その責任を一部認める判決を出しましたので、今回はこの判決を紹介します。

▲ まず、武富士という会社に対する過払い金を、会社ではなく代表者個人に、どうして請求できるのでしょうか。
 通常、消費者金融業者に対する過払い金は、不当利得(民法703条)という法律に基づいて請求します。しかし、代表者個人は、会社が過払い金を得たからといって、直接自分が得をしていることにはなりませんから、代表者個人に対して、不当利得返還請求を行うことは、法律上、不可能です。
 この点、本判決の原告らは、次の2つの法律上の主張を行いました。
@ 不法行為責任(民法709条)
 代表者は、原告らとの取引が既に過払い状態になっており、会社が原告らからの弁済を受け取る権利がないにもかかわらず、会社をして、弁済を受け取らせた。これは、代表者個人の不法行為である。
A 会社法429条1項(及び会社法制定前の旧商法266条の3第1項)
 代表者は、会社の経営者として、会社が原告らからの弁済を受け取る権利がないにもかかわらず、弁済を受け取るようなことがないよう、注意しなければならないが、その注意を怠った。
 これに対して代表者側は、
・ 会社は、最高裁の判決や貸金業法施行規則の改正などを受けて、適切な作業を行なってきた。
・ 顧客が過払いか否かを判断するには、利息制限法に基づく引き直し計算を行う必要があるが、引き直し計算の仕方については未ださまざまな法律的な論点がある(から、画一的に引き直し計算をすることができず、会社もしくは代表者に、それぞれの個別事情に基づいて引き直し計算を行う義務はない)。
などと主張しました。
 そして本判決は、結論として、平成19年10月7日以後に支払った部分について、代表者に対して支払分を賠償する命令を出しました。

▲ この判決を読む上で、頭に入れて置かなければならないのは、過払い問題に関して、最高裁が、平成18年1月13日、平成19年6月7日と平成21年9月4日に出している、3つの判決です(以下、順番に、「平成18年判決」「平成19年判決」「平成21年判決」といいます)。
 平成18年判決と平成19年判決は、詳細を省略しますが、過払金返還請求権の有無とその範囲について、それまで争いがあった部分のほとんどを解決した判例と評価できます。また平成21年判決は、消費者金融が顧客に対して過払い分の弁済を請求して受け取った場合、その請求の仕方や受け取り方が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合には不法行為となるとするものです。
 平成21年判決は、消費者金融会社が過払い金を受け取ることは、原則として(不当利得ではあるが)不法行為ではないとするものです。この判決に従うと、過払い金を受け取ったことについて、会社ではなく代表者個人に対して責任追及することは、特別な事情がない限り、無理という結論になるものと考えられます。
 しかし本判決は、
・ 平成21年判決は、平成18年判決が出る前の貸金の請求に関する事案であり、平成18年判決の後の請求行為については、平成21年判決とは別に考えるべきである。
とした上で、武富士が、平成18年6月に財務局長に提出した有価証券報告書に、平成18年判決によりみなし弁済が成立する余地がほとんどなくなった旨を記載していたことから、この時点で武富士(及び代表者)は、それぞれの顧客について、引き直し計算を行なって貸金残高を確認すべきであったと判断しました。そして、引き直し計算を行う作業に要する時間を考慮して、平成19年判決の4ヶ月後である平成19年10月7日以後に貸金の返還を請求し受領した行為については、不法行為が成立し、代表者に対して支払分の賠償を求めることができる、と判示しました。

▲ さて、本判決は、代表者の賠償責任の成否に関して、顧客の個別事情を捨象した判断を行なっていることが注目されます。すなわち、本判決の理屈は、平成19年10月7日以降に武富士に対して過払い金を支払っている、すべての顧客に応用することができるものです。また、本判決は、会社法429条1項の責任も認めているように読めますので、本判決の理屈によりますと、代表者以外の役員にも責任を追及できることになりそうです。
 また、武富士のほかにも、近時、法律上の倒産手続きを取って倒産したり、事実上の倒産状態に陥っている消費者金融会社は多くあります。本判決は、武富士が作成提出した有価証券報告書の記載を援用していますので、武富士以外の会社に対して、本判決の理屈が直ちに適用できるわけではありませんが、平成19年判決によって、武富士以外の消費者金融会社も、おおむね、過払い金の法律問題がほとんど決着したとの認識を有していたことは事実としてあるものと思いますので、代表者その他の役員の責任追及ができる可能性が出てきたと評価できます。

 ▲ もっとも、本判決だけで、代表者や役員に対して賠償請求できることが決定したと速断することはできません。本判決が果たして平成21年判決と抵触しないのかについては、様々な議論があり得るのではないかと思います。武富士の役員責任を追及する訴訟は他にも種々係属しているようであり、また、本判決に対しても代表者側は控訴しているそうですので、これらの訴訟や控訴審の判断が注目されます。
 (以上)
                                                                    

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