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安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求において弁護士費用が請求可能と認められた最高裁判決の紹介
弁護士 中村美絵
平成24年5月9日更新
平成24年2月24日に,労働者が使用者の安全配慮義務違反を理由に債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴訟追行を弁護士に委任した場合,相当額の範囲内の弁護士費用は上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきであるとの最高裁判決が出ました。 |
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この事件は,就労中に,チタンのプレス機を操作していた労働者であるXが,両手の親指を除く各4指を失うという事故に遭ったことから,使用者であるYに対し,Yには,労働契約上,本件プレス機に安全装置を設けて作業者の手がプレス板に挟まれる事故を確実に回避する措置を採るべき義務及び本件プレス機を使用する際の具体的な注意をXに与えるべき義務があるのにこれを怠り,その結果,事故が生じたとして,使用者Yに対して,労働契約の安全配慮義務違反(債務不履行)を理由に,5913万1878円(うち弁護士費用530万円)及び遅延損害金の損害賠償請求をした事件です。 |
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原審は,1876万5436円及び遅延損害金の限度で債務不履行に基づく損害賠償請求を認容したものの,弁護士費用の請求については,失当であると判断して,これを棄却しました。 | |
これに対し,最高裁は,「労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照),労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。したがって,労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。」として,原審の,債務不履行に基づく損害賠償請求のうち弁護士費用に関する部分につき,請求を棄却した部分を破棄し,原審に差し戻しました。 |
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これまで,交通事故などの不法行為に基づく損害賠償請求事件においては,弁護士費用が加害者の賠償責任の対象に含まれることは,最高裁判所昭和44年2月27日判決において,確定されておりました。 他方,金銭債権の履行を求める訴えで,その取り立てのための訴訟提起に必要な弁護士費用を履行遅滞の賠償として請求できるかについては,原則として認められないとの判断を,最高裁判所はしています(最高裁判所昭和48年10月11日判決)。理由は,法律に別段の定めがある場合を除いて,金銭債権不履行の場合の損害を法定利息に限るとした民法419条があるからです。 本件において,弁護士費用が損害として認められたポイントは,安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求は,不法行為に基づく損害賠償請求をする場合と主張立証すべき事実がほとんど変わらない点にあります。 したがって,弁護士費用が損害として認められる場合を,債務不履行一般に拡大することはできませんが,今回の最高裁判例によれば,安全配慮義務違反に限らず,医療過誤を債務不履行に基づき損害賠償請求する訴訟など,不法行為に基づく損害賠償請求をする場合と主張立証すべき事実がほとんど変わらない類型の訴訟についても,弁護士費用が損害として認められることになると思われます。かかる類型の訴訟は、比較的よくありますので,今後の実務に影響を与えることになるでしょう。 |