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譲渡担保と物上代位

弁護士  相内真一

平成23年9月5日更新

 かつて、譲渡担保は、不動産について設定されていたことが多かったのですが、最近は、債権譲渡担保、動産譲渡担保という形式で利用されることが多く見受けられるようになりました。そして、実務と解釈の積重ねによって「集合(流動)債権」「集合(流動)動産」を(根)譲渡担保の対象とすることを可能とした結果、従来は、担保とすることが困難であった売掛金或いは在庫商品の担保化への途が開かれてきました。
 しかし、譲渡担保についての基本法と言うべき法律が制定されていないことから、その運用、解釈について見解が分かれる分野も見受けられます。
 今回は、譲渡担保権に基づく物上代位を認めた最高裁判例(平成22年12月2日決定)をご紹介したいと思います。
   
 流動動産の譲渡担保という場合、最も多く見受けられるのは「特定の倉庫に在庫し、同倉庫に継続的に搬入搬出される一定の種類の動産」という形で、商品(完成品・原材料)に譲渡担保を設定するケースです。
 しかし、今回の最高裁の案件では、その結論自身が重要であることは言うまでもありませんが、譲渡担保の対象が「養殖施設内の養殖魚」であることが、裁判になった事案として珍しいということができます。この事案では、譲渡担保契約において、「債務者(養殖場経営者)は通常の営業方法に従って養殖魚を販売できる」「通常の営業方法によって養殖魚を販売した時は、それと同価値以上の養殖魚を補充すること」と定められていました。ところが、赤潮によって養殖魚の多数が死滅したため、譲渡担保権者(債権者)は、以後、債務者に対する貸付をしないこととしたことから、債務者は養魚場を廃止することを決意し(差押え申立時点では現実に廃業していました)、残存していた養殖魚を販売して、その代金を債権者に弁済したものの、債権者に対して負担していた全債務の弁済には足りませんでした。なお、赤潮発生までの間は、債務の履行遅滞はありませんでした。
 債務者は、養殖魚に関して漁業共済契約を締結していましたので、死滅した養殖魚に関して、共済組合に対して共済金請求権を取得していました(建物が火災で焼失した場合の、保険会社に対する保険金請求権と同様に考えていただいて結構です)。そこで、債権者は、譲渡担保権に基づいてその共済金請求権に対する差押えを申請したところ、債務者はこれを争い、最終判断は最高裁判所に持ち込まれました。
   
 譲渡担保権の物上代位効については、既に、平成11年の最高裁決定で認容されているものの、同決定が「一般的な意味で譲渡担保権の物上代位効を全面的に認めた」ものであるか否かについて、異論がなかったわけではありません。
 しかし、今回の最高裁決定は、本件の高裁判断に引き続いて、「譲渡担保一般について物上代位権の行使」を明らかに認めており、その意味で、今後の実務に与える影響が大きいと思われます。
 ただ、疑問が生ずるのは、その理由づけが高裁と最高裁とで、少し異なることです。
 高裁では、「共済金の受取は通常営業の範囲を超えている」「通常の営業範囲を超えて処分がなされた時は、当然には新たな動産が補充されない」ということを理由として、「債務者が養殖業の廃業を決意していなくても」物上代位に基づく共済金の差押えが認められると判断しました。
 しかし、債務者(養魚場経営者)が赤潮発生の後、別途資金調達を行って「赤潮で死滅した養殖魚と同価値以上の養殖魚の稚魚を補充」していた場合はどうなるでしょうか?
 つまり、「通常営業の範囲を超えた処分」がなされたとしても「新たな動産が補充された結果として、通常営業が速やかに継続されること」は、十分にあり得ることです。その場合にまで、「共済金の受取が通常営業の範囲を超えている」ことを理由とする物上代位が認められるのでしょうか?その意味で高裁の判断プロセスには疑問があります(但し、債権者に対する債務の履行遅滞がないことが前提になります)。
 これに対して、最高裁は「譲渡担保権設定者が通常営業を継続している場合には、目的物の滅失により損害保険金請求権が発生したとしても、これに対して直ちに物上代位権を行使できる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り、・・・・・・物上代位権を行使することは許されない」と判断した上で、「差押え申立時点で養殖場が廃止されていた」ことを理由として、物上代位に基づく差押えを認めました。
 言い換えると、最高裁は、「通常営業の範囲を超える処分」がなされたとしても、「通常営業が継続されている」ときは、債権者に対する債務の履行遅滞がないことを前提として、物上代位権を行使することができないと判断したわけです。
   
 4  高裁の考え方であれば、養殖場経営者は「赤潮発生で養殖魚の多くが死滅した時」は、「別途資金で稚魚を補充し」て営業を続けようとしても、「債務の履行遅滞が無い場合」であっても、共済金に対する差押えを甘受せざるを得ません。
 これに対して、最高裁の考え方であれば、「債務の履行遅滞が無」ければ、養殖場経営者は「赤潮発生で養殖魚の多くが死滅した時」は、「別途資金で稚魚を補充し」て営業を続ければ、共済金の差押えを排除して、自ら共済金を受け取ることができます。
 これは大きな違いです。最高裁の考え方であれば、養殖場経営者は、共済金請求権を返済の引当にして、別途短期借入れを起こしてその借入金で稚魚を購入・補充して、営業継続し、共済金を受け取ったらそれをもって短期借り入れを返済することが可能ですが、高裁の考え方ですと、そのようなチャンスは全くありません。
   
 5  ただ、最高裁の判断の中には「直ちに物上代位権を行使できる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り」という部分があります。
 これは、当該担保権の被担保債権たる融資の金銭消費貸借契約の特約として「養殖場で赤潮が発生し、養殖魚の○○%が死滅し或いは出荷不能となったこと」「期限の利益が喪失された時は直ちに物上代位ができる」旨を定めておくことによって、物上代位権の即時行使を認める余地があるということを意味しています。
 債権者(譲渡担保権者)の立場からは、この最高裁決定を前提として、上記のような特約を付すなど、動産譲渡担保契約の契約条項の見直しがされていくと思われます。
                                                                            

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