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金利スワップ契約に関する裁判例のご紹介

弁護士  寺中良樹

平成25年3月12日追記

            

平成23年9月1日・平成25年3月12日更新

            
 今回は、金利スワップ契約に関する平成23年4月27日福岡高裁判決(金融・商事判例1369号25頁。以下、「本件高裁判決」といいます。)をご紹介します。 
   
  事案としては、控訴人(原告、株式会社)が被控訴人(被告、三井住友銀行)との間で、平成15年7月と平成16年6月に、にプレーン・バニラ・金利スワップ契約(変動金利と固定金利を交換する、通常のタイプの金利スワップ契約)を締結したところ、控訴人がこれらの契約によって、多額の差損金を銀行に継続的に支払わなければならなくなったことから、被控訴人に対して、契約時の説明義務違反などに基づく損害賠償などを求めたものです。
(本件では、説明義務違反のほかに、優越的地位の濫用や適合性原則が問題とされたようですが、これらの点については本稿では省略します。)
   
 この高裁判決は、金利スワップに関する知識がないと、かなり読みづらいのですが、まずは要点を抜き出してみますと、以下のとおりです。
   
 @  本件銀行説明においては、本件金利スワップ契約における中途解約時における必要とされるかも知れない清算金額については、極めて抽象的であって、解約手段は合意解約に限定され、場合によっては清算金の支払が必要となるときがあることが判るだけであった。
 金利スワップ契約は、銀行の販売する金融商品であるから、解約による契約の相手方たる銀行の損害を賠償すれば、その解除は成立するのが通常である。本件銀行説明においては、その清算金(損害填補金)の具体的算定方法ないし概算額については全く推測もできず、顧客がいわば購入した金利スワップ契約を続行すべきか、清算金を支払っても解約の申入れをすべきか、その解約制限に基づくリスクを評価して、購入(契約締結)の可否を決定することの判断材料は与えられなかったものである。
   
 A  金利スワップ契約における先スタート型とスポットスタート型の各スワップ金利が理論上なぜ異なることになるのか、スタート時点の相違による利害等については、本件銀行説明においては全く無かった等から、将来はともかく当面は変動金利の上昇はないため、当面は狭義の変動金利リスクが存在しないと考えていた控訴人会社にとって、スポットスタート型を将来選択すべきなのか、先スタート型を現時点で選択すべきかの判断は客観的にはできなかったものである。
   
 B  金利スワップ契約において、変動金利に3か月TIBOR等の客観的な基準金利が採用された場合の固定金利水準は、前記のとおり銀行間市場ではそれに見合う銀行間のスワップレートが基準となる。これと異なって、対顧客市場において銀行が設定する固定金利水準は、営業として金利スワップ取引を金融商品として販売するのであるから、原則的には、顧客からの利息回収の信用リスク及び銀行が引き受けることになる変動金利リスク並びに営利企業としての銀行の純粋な利益と販売コストが考慮された利率部分(前記銀行利ざや等の利率)がスワップレート金利に少なくとも加算された利率とされるものと理解される。他方、顧客の立場からすると、変動金利リスクヘッジを目的として契約を締結するのであるから、他のリスクヘッジのための手段(例えば、固定金利への借替等)に必要とされるコストやヘッジを必要とした個別的事情も含む諸事情と受け取る予定のTIBOR等を基準金利とする利息金の総計の経済的価値が、顧客が銀行に支払う総金額と経済的に見合うと考えられる固定金利の水準になると理解される。その双方の経済的価値が著しく異なる(実際には、双方の金利水準に大きな差がある。)ときは、スワップされる金利関係同士の経済的同価値関係を原則とする金利スワップ契約は、そのヘッジとしての機能を十分に果たせないことになると解される。本件銀行説明においては、この点に関する説明は一般的なものにせよ存しなかった。 
   
 本件高裁判決は、上記の3点の説明不足を理由として、被控訴人に説明義務違反があったとしたものです。

 金利スワップ契約などの、いわゆるデリバティブ(金融派生商品)取引について、販売者である銀行などに対して、契約者が説明義務違反を理由に損害賠償を求める事案はしばしば見られ、裁判例も、説明義務違反を認めるものと認めないものとがあります。
 本件判決の特徴は、銀行担当者のミスや嘘といった、その事案特有の事情を咎めるというよりも、これまで銀行が比較的普通に行ってきたと思われる取り扱いを、不十分であると判断したところにあると思います。
 たとえば@について見ると、本件に限らず、通常、金利スワップ契約は、期間内は解約することができないとされ、どうしても解約した場合には、銀行に違約金を支払わなければならないとされています。しかし、具体的にどの程度の違約金が発生する可能性があるか、概算でも説明することは、特に平成15年ないし16年当時は、ほとんどなかったのではないかと思います。
 またBについても、変動金利をTIBORとした場合に、価値的に見合う固定金利の水準(これは、客観的に計算できるもののようです)について説明しているような例は、他にもないのではないかと思います。また、スワップ金利の設定は、銀行が販売コストや利益を織り込んで決定し、提案する(つまり、銀行は、自ら契約の相手方となりながら、手数料も取っている)のですが、このような仕組みについて説明した例も聞いたことがありません。そもそも、金利スワップ契約で、銀行が自分の利益を考えて金利設定をしていると認識できていない(銀行から借入をしていることに対する銀行のサービスのようなものと考えている)会社が、多いのではないでしょうか。
 もちろん、本件判決の結論は本件事案に即したものであり、ただちに他の事案に当てはまるものではありません。実際、本件では、金利条件の設定が、他契約に比べてもかなり銀行に有利なものであったという事情があるようです。しかし、本件判決の理屈によると、本件のみならず、かなり多くの金利スワップ契約に、問題があると言えそうです。また、金利スワップ契約のみならず、他の種類のデリバティブ契約でも同様です。現在、円高状況で多額の差損が問題となっている、オプション取引についても、本件判決の理屈によると、かなりの事案で問題があるということになりそうです。

   (以上)
・ ・ ・ ・ ・  
(平成25年3月12日追記) 
 
 上記の高裁判決に対して、銀行側が上告しており、平成25年3月7日に最高裁判決がありました(判決文は裁判所ウェブサイトに掲載されています)。その結果は、原判決破棄と控訴棄却、すなわち銀行側の逆転勝訴です。
 最高裁判決は、上記判決の@からBについて、次のとおり、判示しました。

(結論)  
本件取引は,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右されるものであって,その基本的な構造ないし原理自体は単純で,少なくとも企業経営者であれば,その理解は一般に困難なものではなく,当該企業に対して契約締結のリスクを負わせることに何ら問題のないものである。上告人(銀行)は,被上告人(会社)に対し,本件取引の基本的な仕組みや,契約上設定された変動金利及び固定金利について説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明したのであり,基本的に説明義務を尽くしたものということができる。
 
(高裁判決の@について)  
本件提案書には,本件契約が上告人の承諾なしに中途解約をすることができないものであることに加え,上告人の承諾を得て中途解約をする場合には被上告人が清算金の支払義務を負う可能性があることが明示されていたのであるから,上告人に,それ以上に,清算金の具体的な算定方法について説明すべき義務があったとはいい難い。

(高裁判決のAについて)  
上告人は,被上告人に対し,先スタート型とスポットスタート型の2種類の金利スワップ取引について,その内容を説明し,被上告人は,自ら,当面変動金利の上昇はないと考えて,1年先スタート型の金利スワップ取引を選択したのであるから,上告人に,それ以上に,先スタート型とスポットスタート型の利害得失について説明すべき義務があったともいえない。
 
(高裁判決のBについて)  
本件取引は上記のような単純な仕組みのものであって,本件契約における固定金利の水準が妥当な範囲にあるか否かというような事柄は,被上告人の自己責任に属すべきものであり,上告人が被上告人に対してこれを説明すべき義務があったものとはいえない。

 これを見ると、最高裁判決の判示は、高裁判決とかなり異なり、これまで銀行が比較的普通に行ってきた取り扱いを、是認する内容のものとなっているようです。特に、同種の訴訟では、解約清算金の契約者の想像を大きく超える高額になったことが、問題とされることが多いのですが、@の判示を見ますと、それだけの理由で説明義務違反が認められる余地は、かなり少なくなったと言えそうです。
  
 無論、最高裁判決によって、一般的にデリバティブ契約の問題点が解消されたというわけではありません。最高裁判決は、単に、積極的に銀行側が説明する一般的な義務がないことを判示したものであり、銀行側が説明していた内容に誤りが含まれていた場合は、依然として問題となると考えられます。また本件は、プレーン・バニラ・金利スワップという、「単純な仕組み」のものでしたが、もう少し複雑な(たとえばノックアウト条項やレバレッジ条件が付された)契約は、本件判決の射程外であると考えるべきです。

以上  
                                                                            

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