本文へ


リーガルトピックス(Legal topics)

ホーム > リーガルトピックス > 平成23年 >岩手県での出張法律相談

リーガルトピックス(Legal topics)

一覧に戻る

岩手県での出張法律相談

弁護士  水口良一

平成23年6月8日更新

1 はじめに
    このたびの大震災により被災された皆さまには、謹んでお見舞いを申し上げます。
 また、一日でも早い復興を、心よりお祈り申し上げます。

2 出張法律相談に参加
    岩手弁護士会では震災後、全力をあげて電話相談や出張相談を実施されていました。
 しかし、岩手弁護士会だけでは出張相談の維持が困難だということで、私が所属する大阪弁護士会にも支援の要請があったそうです。
 そして、大阪弁護士会から会員に岩手県の出張法律相談の参加の募集がありましたので、私もこれに応募をさせていただきました。
 その結果、5月20日(金)に岩手県の避難所に訪問させていただき、法律相談をさせていただくことになりました。
 なお、私がこの出張法律相談に応募させていただいたのは、少し理由があります。
 と言うのも、私は、阪神・淡路大震災が発生した時は、神戸大学の2回生でした。
 私は、当時、実家から大学に通学をしていましたので、直接被害を受けることはありませんでしたが、知人が亡くなったり、地震で滅茶苦茶になった街の様子を目の当たりにしていました。
 しかし、その当時の私は、司法試験の勉強とアルバイトに追われた生活をしており、他人を顧みる余裕などありませんでした。
このためボランティアなどに参加することもなく、神戸の復興に何のお力にもなれませんでした。
 このことがずっと私の心に傷のように残っておりました。
 このようなことから、私は、今回の震災では少しでもお力になりたいと考えていました。
 そのようなときに大阪弁護士会から応募のファックスをいただきました。
 私は、「私が少しでもお力になれるのならありがたい。また、私が普段仕事でさせていただいていることが少しでもお役にたつのであればこんなに嬉しいことはない。」と思って応募をさせていただいたのでした。

3 前日・盛岡へ
    5月19日に伊丹空港からいわて花巻空港へと行き、その後、バスに乗って盛岡へと移動しました。
 しかしながら、盛岡市内では地震の影響はあまり感じませんでした。
 宿泊先の近くには、飲み屋街があるようで、飲み屋に行くと見られる人たちが多くみられました。また、コンビニも品物は豊富で、地震の影響を感じることはありませんでした。

4 釜石へ
    20日午前9時に盛岡で集合しました。
 岩手弁護士会の弁護士2名とその他の弁護士会の弁護士、私を含めて総勢8名が参加しました。
 その後、車に分乗して釜石へ向かいました。
 車の中では、地震の状況やよくある相談等を岩手弁護士会の先生に色々と教えていただきました。そのお話を聞いて、災害支援制度や義捐金では、まだまだ金銭的には不十分であることが良くわかりました。
 また、現地の状況を見た上で相談に乗らせていただいた方が良いということで、釜石市の被災した場所と震災後に市役所の機能を担っている施設を見学させていただきました。
 釜石市については、釜石駅より内陸部分については、あまり地震の被害を感じませんでしたが、釜石駅より海側にいくと壊滅的な状況でした。
 まち全体ががれきの山になっていて、がれきの撤去だけで相当の時間がかかるのではないかと感じられました。
 また、市役所の機能を担っている施設では、いまだに行方不明者に関する掲示板があり、特に「(小さい)子どもをさがしています」という掲示板には、私にも子どもがいることから、親御さんの気持ちを痛いほどに感じました。
 街には、よくあるようなお店に「全国の皆様の支援を心から感謝しています。」と書かれた大きな紙が、道路に向けて貼られていて、被災された方と支援されている方との心の交流に胸が熱くなりました。

5 法律相談へ
     午後1時に避難所に到着しました。
 法律相談に来させていただいた旨を避難所にいる職員の方に説明させていただき、避難所の入り口付近に相談所を設営させていただきました。
 そのとき、避難所にマットのようなものを敷き、雑魚寝のような状況で生活されている避難者の方の姿を見て言葉を失くしました。プライバシーも全くないこのような状況で2カ月以上も生活されたのかと、その大変さが容易に想像されました。
 また、インフルエンザや嘔吐下痢症、食中毒などが蔓延しないように、あちこちに掲示がなされ、消毒液が置いてありました。
 しばらく設営させていただいた相談所にいましたが、全く相談者が来られる様子がないので、岩手弁護士会NEWSをもって、避難所にいらっしゃる避難者の方に配りながらお話に行きました。
 しかし、2日前からがれきの撤去作業が始まったようで、若い男性の方はみなさんそちらに行かれ、避難所には30名程度しか残っていませんでした。
 その後、職員の方が法律相談のアナウンスをして下さり、ようやく1件目の相談が開始されました。
 その後、断続的に相談があり、用事のため避難所から外に出かけていた方が戻ってこられたタイミングを見計らって、再度、岩手弁護士会NEWSを避難所にいらっしゃる避難者の方に配りに行きました。すると、また少し相談に来られました。
 結局、相談は1日で5件でした。
 相談内容としては、労災についての問題と生活再建支援法に関するものが多かったように思います。
 最初は、私たちのことを不審がっていた職員の方も、私たちが関西から法律相談のお手伝いに来させていただいたことを知るととても友好的な態度になり、自分たちも北九州市や東京の荒川区からお手伝いに来たとおっしゃっていました。
 下校時間を過ぎて子どもたちが帰ってくるころになると、それとともに、子どもたちの様子を心配した小学校の先生が、避難所まで様子を見に来られていました。
 子どもたちは、先生が来てとてもうれしそうにしていましたが、その光景は、ほほえましくも、痛ましくも感じられました。
 食事の時間では、避難所の皆さんが届けられた食事を協力して分配されていました。
 その中には、今日が誕生日だという男性がおられ、そのことを聞いたうちの一人が慌てて避難所を出てケーキを買いに行かれていました。
 家が流され、家族が亡くなり、避難所で生活をしていても、それでも日常の生活を暮らしていかなければいけないという現実が、そこにはありました。
 釜石市の職員の方に、今なにがお困りですかとお尋ねすると、「今は物資はたくさんあるが、お金がなく、仕事場もない。金銭と雇用の不安が一番です。」とおっしゃっていました。
 その後、3時間以上かけて、車で盛岡に帰ってきましたが、このような活動を継続的にされている岩手弁護士会の先生方のご苦労に、ただただ頭が下がる思いでした。

6 最後に
    今回、釜石市で法律相談をさせていただきましたが、私自身としては、これで終わりとすることなく、自分が目の当たりにした状況を踏まえて、今後どのようにすれば被災地の方々のお役に少しでも立つことが出来るかを、自分なりに考え、そして行動していきたいと思います。

                                                                         以上
   

一覧に戻る

リーガルトピックス(Legal topics)