ホーム > リーガルトピックス > 平成23年 >敷引特約の効力に関する最高裁判所の初判断
敷引特約の効力に関する最高裁判所の初判断
弁護士 松本史郎
平成23年4月7日更新
平成22年1月15日更新のリーガルトッピクスでは、敷引特約をめぐりこれを有効とする大阪高裁の判決(平成21年6月19日 言渡)とこれを無効とする京都地裁の判決(平成21年7月2日言渡)を紹介しました。
上記大阪高裁の判決は、最高裁に上告されていましたが、平成23年3月24日、最高裁第1小法廷で上告棄却の判決が言渡され、敷引特約を有効とした判決が確定しました。
1 事案の概要
2 争点
本件敷引特約が消費者契約法10条により無効か否か。
3 最高裁の判断
4 コメント
本件最高裁判決は、通常の修繕費、家賃額、礼金の有無などに照らし、敷引額が高すぎる場合には敷引特約が無効になるが、本件では、敷引額が賃借期間に応じて18万〜34万円で、これは家賃の2倍弱から3.5倍強にあたり、礼金の支払もなかったとして、敷引額が高過ぎるとはいえないとして、敷引特約を有効と認めたものです。
本件最高裁判決が出るまでは、借主は、敷引特約の無効を主張して、敷金全額の返還を求めてくるのに対し、貸主は、明らかな通常損耗の域を超える損耗についての補修費を敷金から差引くという対応に出るなどして、敷金返還に関する紛争が多発し、裁判所も敷金から差引くことができる損耗補修費の認定に多くの時間をわずらわされてきました。
本判決は、このような紛争に一定の解決指針を与え、同種の紛争を回避させるとともに裁判所の負担を軽減させるものとして評価することができます。
なお、本件最高裁判決では、家賃の何倍なら不当に高額になるかについて、基準を示してはいませんが、私の独自の見通し、感触として申し上げるなら、家賃の3倍程度又は一般的な修繕費から考えられる15万円ないし20万円程度の敷引ならセーフになるのではないか、と考えています。
上記大阪高裁の判決は、最高裁に上告されていましたが、平成23年3月24日、最高裁第1小法廷で上告棄却の判決が言渡され、敷引特約を有効とした判決が確定しました。
1 事案の概要
ア | 賃料 | 1か月9万6000円 | |
イ | 賃貸期間 | 平成18年8月21日から同20年8月20日までの2年間 | |
ウ | 敷金 | 40万円 | |
エ | 敷引特約 | 通常損耗についての原状回復費用を敷金から次の額を控除する方法で借主に負担させる。 契約経過年数 1年未満 18万円 同 2年未満 21万円 同 3年未満 24万円 同 4年未満 27万円 同 5年未満 30万円 同 5年以上 34万円 という事案で、この判決は、本件の敷引特約は、有効であるとして、借主の貸主に対する敷引額21万円の返還請求を棄却しました。 |
2 争点
本件敷引特約が消費者契約法10条により無効か否か。
3 最高裁の判断
(1) | 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。 | |
(2) | これを本件についてみると、本件特約は、契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって、本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、本件契約における賃料は月額9万6000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。 | |
(3) | そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。 |
4 コメント
本件最高裁判決は、通常の修繕費、家賃額、礼金の有無などに照らし、敷引額が高すぎる場合には敷引特約が無効になるが、本件では、敷引額が賃借期間に応じて18万〜34万円で、これは家賃の2倍弱から3.5倍強にあたり、礼金の支払もなかったとして、敷引額が高過ぎるとはいえないとして、敷引特約を有効と認めたものです。
本件最高裁判決が出るまでは、借主は、敷引特約の無効を主張して、敷金全額の返還を求めてくるのに対し、貸主は、明らかな通常損耗の域を超える損耗についての補修費を敷金から差引くという対応に出るなどして、敷金返還に関する紛争が多発し、裁判所も敷金から差引くことができる損耗補修費の認定に多くの時間をわずらわされてきました。
本判決は、このような紛争に一定の解決指針を与え、同種の紛争を回避させるとともに裁判所の負担を軽減させるものとして評価することができます。
なお、本件最高裁判決では、家賃の何倍なら不当に高額になるかについて、基準を示してはいませんが、私の独自の見通し、感触として申し上げるなら、家賃の3倍程度又は一般的な修繕費から考えられる15万円ないし20万円程度の敷引ならセーフになるのではないか、と考えています。