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平成22年4月施行の改正労働基準法の再確認
弁護士 谷岡俊英
平成23年1月17日更新
昨年4月に労働基準法(以下、「労基法」といいます。)が改正されてから約10カ月が経とうとしています。
しかしながら、この改正内容は必ずしも十分に認識されているとは言い難いところがあります。そこで、今回は、昨年4月の労基法改正のポイントについてご説明させていただきます。
第1 主な改正ポイント
昨年4月の労基法改正のポイントは下記の3点です。
(1) 限度時間を超える場合の特別条項付36協定に関する改正
(2) 月60時間を超える時間外労働についての割増賃金率の引き上げ
(3) 年次有給休暇の時間単位での付与
第2 (1)限度時間を超える場合の特別条項付36協定に関する改正について
しかしながら、この改正内容は必ずしも十分に認識されているとは言い難いところがあります。そこで、今回は、昨年4月の労基法改正のポイントについてご説明させていただきます。
第1 主な改正ポイント
昨年4月の労基法改正のポイントは下記の3点です。
(1) 限度時間を超える場合の特別条項付36協定に関する改正
(2) 月60時間を超える時間外労働についての割増賃金率の引き上げ
(3) 年次有給休暇の時間単位での付与
第2 (1)限度時間を超える場合の特別条項付36協定に関する改正について
周知のとおり、労基法では、労働時間は1週40時間、1日8時間「以下、併せて「法定労働時間」といいます。」と定められています。これを超えて使用者が労働者に対して法定時間外労働を行わせるためには、労使間で時間外労働協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。 この36協定では、㋐1日、㋑1日を超える3カ月以内の期間、㋒1年間のそれぞれについて、延長することができる労働時間が決められている必要があります。もっとも、㋑及び㋒については、一定の限度時間が定められているため、労使の協定でどのような時間を設定してもよいというわけではありません。 しかし、業種や時期などの事情によって、どうしても上記限度時間を超えて時間外労働を行わなければならないことがあると予想される場合もあります。 そこで、そのような場合には、「特別条項付36協定」を締結して、限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。 特別条項付36協定では、従来から、 ①原則としての延長時間(限度時間以内の時間) ②限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情 ③一定期間途中で特別の事情が生じ、原則としての延長時間を延長する場合に労使が取る手続 ④限度時間を超える一定の時間 ⑤限度時間を超えることができる回数 を定めていなければなりませんでした。 ところが、昨年4月の労基法改正では、これらの事情に加えて、 ⑥限度時間を超えて働かせる一定の期間ごとに割増賃金率を定めること ⑦⑥の率を法定割増賃金率(25%以上)を超える率とするよう努力すること ⑧そもそも延長することができる時間数を短くするよう努めること という基準が追加されました。 ⑦、⑧については、あくまで努力規定ですので、割増率を25%とすることも違法とはなりませんが、⑥については、特別条項付36協定上に明確に記載しなければなりません。そして、割増賃金率は、「1日を越え3箇月以内の期間」、「1年間」の双方について定めなければなりません。 この規定は、平成22年4月1日以後に特別条項付36協定を締結する場合の他、既に締結している特別条項付36協定を平成22年4月1日以後に更新する場合にも適用されることに注意して下さい。 また、割増率を変更した場合には、就業規則(賃金規定)の割増賃金の部分を同時に変更する必要がありますし、採用の際の労働条件の明示の場面においても割増率を明示しておく必要があることにも注意して下さい。 |
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第3 (2)月60時間を超える時間外労働についての割増賃金率の引き上げ | |
これについても周知のとおり、従前の労基法では、労働者が法定労働時間を超える時間外労働を行った場合、使用者は25%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないとされてきました。 しかしながら、昨年4月の労基法改正では、 「1カ月60時間を超える法定時間外労働に対しては、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」 こととされました。 これは、たとえば、月70時間法定時間外労働をすることに労使で決めた場合には、1カ月60時間までについては25%以上の割増率で計算した割増賃金を支払い、1カ月60時間を超える部分については50%以上の割増率で計算した割増賃金を支払わなければならないということです。ここで1カ月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日に行った労働は含まれませんが、法定休日以外の休日に行った法定時間外労働は含まれます。 このことは、改正ポイント(1)との関係で考えると、特別条項付36協定がまさに限度時間を超えて労働させる場合であり、1カ月60時間以上の労働をさせる可能性が十分にあることから、特別条項付36協定を締結する場合には、月60時間を超える部分についての割増賃金も特別条項付36協定上に明示しておく必要があることになります。 また、深夜労働との関係では、深夜(22時~5時)の時間帯に1カ月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率(25%以上)と時間外割増賃金率(50%以上)の両方の規制がかかってくることになりますので、割増賃金率は75%以上となります。 なお、この改正ポイントに関してのみは、現在では大企業にのみ適用され、中小企業には適用されません(中小企業については法施行3年経過後以降に改めて検討することとされています。)。中小企業に該当するか否かは、 http://www.mhlw.go.jp/za/0730/d27/d27-02.pdf をご参照ください。 |
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第4 (3)年次有給休暇の時間単位での付与 | |
従来、年次有給休暇は、1日単位でしか取得できませんでした。 しかし、昨年4月の労基法改正により、年に5日を限度として、「時間単位」で年次有給休暇を与えることができるようになりました。 ここでいう「時間単位」とは1時間、2時間…という「時間」のことを指し、分単位等、「時間」未満の単位で付与することはできません。 もっとも、どんな場合でも時間単位の年次有給休暇の付与ができるわけではありません。この付与を可能にするためには、過半数組合(ない場合には過半数代表者)との間で労使協定を締結する必要があります。そして、当該労使協定では、 ①時間単位年休の対象労働者の範囲 ②時間単位年休の日数 ③時間単位年休1日の時間数 ④1時間以外の時間を単位とする場合にはその時間数 を定めておかなければなりません。 これらを定めるにあたっての注意点ですが、まず①については、一部の労働者を対象外とする場合は、「事業の正常な運営」を妨げる場合に限られ、取得目的などによって対象範囲を定めることは許されません。次に②については5日以内の範囲に限られます。ただし、前年度からの繰り越しがある場合には、当該繰り越し分を含めて5日以内となります。③については、所定労働時間数を基に定められ、「時間」に満たない端数は切り上げて計算します。 この改正ポイントと使用者との時季変更権との関係ですが、年次有給休暇であることは変わりがありませんので、事業の正常な運営を妨げる場合は使用者に時季変更権が認められるものの、日単位での請求を時間単位に変更することや時間単位の請求を日単位に変更することはできません。 昨年4月の労基法改正ポイントの詳細については、 「改正労働基準法のポイント」 「改正労働基準法のあらまし」 「改正労働基準法に係る質疑応答」 が参考になります。いずれも厚生労働省HPからダウンロードできますので、ご参照ください。 |