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交通事故−損害賠償請求と人身傷害補償特約
弁護士 天野雄介
平成22年11月1日更新
自動車保険の人身傷害補償特約とは、契約者の過失の割合に関係なく損害を補償する自動車保険の特約をいいます。
例えば、相手方と過失割合について争いがある場合に、自車の人身傷害補償特約を利用して自車の保険会社に対して請求すれば、過失割合に関係なく100%の補償を受けることができ、自車の保険会社が相手方に請求してくれます(この請求の結果は契約者には関係ありません)。
そのため、やっかいな示談交渉や裁判を回避でき、早急に補償を受けられます。
そして、この人身傷害補償特約は、使用しても保険の等級が下がりませんので、利用できるときは是非利用すべきです。
しかし、反面、デメリットもあります。
人身傷害補償特約での支払は自車の保険会社の支払い基準によって支払われるため、通常の裁判基準よりもかなり低額となることです。
例えば、後遺障害慰謝料は14級で40万円(大阪の裁判基準では110万円)しか支払われません。
そのため、自車の保険会社から人身傷害補償特約の支払いを受けてから、相手方に対して人身傷害補償特約の基準と裁判基準の差額を請求することがあります。
また、逆に、過失相殺が主張され、相手方から損害の一部(例えば損害の7割)の支払を受けた後、過失相殺され相手方から支払を受けられなかった損害の一部(例えば損害の3割)について、自車の保険会社に対して人身傷害補償特約の請求をすることもあります。
相手方の過失が100%の場合は、相手方から裁判基準での支払を受ければ、その後、人身傷害補償特約に対して請求することはできませんので、一部でも急いで支払いを受けたいという場合以外は、相手方に対して損害額の100%を請求することでよいでしょう。
問題は、相手方の過失が100%ではなく過失相殺の問題がある場合です。
相手方保険会社と自車の保険会社から、合計で総損害額の何%を取得できるかは、学説・判例に各説があり、統一した運用はなされていません。
絶対説という人身傷害補償の保険会社に有利な説、差額説という被保険者つまり被害者に有利な説、比例配分説という折衷的な説まで様々です。
この点、平成20年10月7日に最高裁判決が出されましたが、最高裁判決を要約すれば、「どの説が適用されるかは人身傷害保険契約の契約内容による」とされ、最高裁自体がどの説を取るという結論は示されませんでした。
このような解釈が一定していない結果、どの説を取るかで結論が変わるだけではなく、請求する順序(相手方への請求と人身傷害補償の請求の順序)によっても結論が変わる可能性があります。
次回、具体例で説明いたします。