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最近の保険給付に関する判例のご報告−1
弁護士 相内 真一
平成22年6月1日更新
生命保険契約で「死亡給付金の受取人」として指定されていた人と、「その保険契約の契約者兼被保険者で、受取人の推定相続人」とが同時死亡した場合の取扱並びに関連する保険法のご紹介
1 | 夫を保険契約者兼被保険者とする生命保険契約で、死亡保険金の受取人を妻と定めている例は、世上多く見受けられます。ところが、被保険者である夫と、指定受取人である妻とが、概ね同時に死亡したものの、どちらが先に死亡したのかが明らかでない場合、この保険契約に基づく死亡給付金の取扱いはどうなるのでしょうか?夫婦間に子供がおらず、夫にも妻にも、それぞれの推定相続人である兄弟姉妹がいた場合、いずれの兄弟姉妹が、死亡給付金を受取ることができるのか、と言う問題です。「夫の兄弟姉妹と妻の兄弟姉妹みんなで、頭割りで分ければいいのでは?」とお考えになる方もおられるかもしれませんが、それでは法律論にはなりません。 この種事案について、昨年、最高裁判所が、初めて、判断を示しましたので、それをご紹介したいと思います。 |
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2 | まず、複数の人が死亡した場合、そのうちの1人が、他の人の死亡した後になお生存していたことが明らかでない場合、その複数の人たちは、同時に死亡したものと推定することが、民法第33条の2に定められています。「同時死亡の推定」と称されています。 「同時に死亡した」ということの法的意味は、この「同時死亡が推定される人同士」では、相続が発生しないという意味です。 ですから、夫婦が「同時死亡」した(或いは、同時死亡したと推定された)場合には、夫が妻の財産を相続承継することは無く、妻が夫の財産を相続承継することもありません。この場合には、夫の財産は、夫の直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹の順で相続承継され、妻の財産は、妻の直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹の順で相続承継されます。ここまでは、別途の解釈論を容れる余地はありません。 この条文のみを前提とすると、冒頭の事案では、夫婦間に相続承継が発生しないのですから、「夫の死亡保険金を受取ることができる」という妻の立場・権利が、同時に死亡したと推定される夫に相続承継される余地はありません。結果として、「夫の死亡保険金を受取ることができる」という妻の立場・権利は、夫を除外した妻の相続人が承継します。例えば、夫婦間に子供がおらず、そして、妻の両親が既に他界していた場合であれば、妻の兄弟姉妹が、死亡保険金を取得することになります。夫の兄弟姉妹は、夫の死亡保険金は一銭も取得できません。 |
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3 | ところが、生命保険について、旧・商法676条では、
この条文は、保険契約が有効に存在しているのに指定受取人が死亡してしまっていた場合に、「死亡保険金の受取人が不存在」という状況をなってしまうことを回避するために、特に、法律が補充的に、死亡保険金の受取人を定めたものです。 この条文のみを前提とすると、冒頭の事案は、
妻→夫→夫の法定相続人(但し、妻を除く) という順で移動し、先ほどの、民法第33条の2の解釈とは、反対の結論になってしまいます。 そもそも、夫の死亡保険金というものは「夫の命の代償」とも言えるお金です。そして、そのような「夫の命の代償」というお金を、夫の法定相続人に含まれている兄弟姉妹を外して妻の兄弟姉妹に取得させるということには、心理的な抵抗があるかもしれません。この考え方の背景には、そのような配慮があるように思います。 |
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4 | この事案について、最高裁判所は、
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5 | 現在、上記旧商法保険編は廃止され、保険法が制定されています。 第46条では 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる と定めて、旧商法の規定を更に明確化しています。しかし、「同時死亡」の場合を定めた条文は無いので、前掲の最高裁の判例が、今後、踏襲されていくことになります。 ところで、新保険法には、旧商法と異なる部分もあります。 旧商法第675条2項では、保険金受取人の変更は、元々の保険契約者のみが出来ることになっていました。つまり、保険契約者が死亡すると、その時点で受取人は確定してしまい、保険契約者の死亡後に、保険契約者の相続人が、受取人の変更をすることは出来ないこととされていました。しかし、保険法では、このような制約を無くして、保険契約者が死亡した場合、保険契約者の相続人は、受取人の変更をすることが出来ることになりました。例えば、夫が被保険者・保険契約者であり、妻が受取人である保険契約で、妻存命中に夫が死亡した場合、妻を含む相続人全員が合意すれば、受取人を妻から直系卑属(子供さん)に変更することが出来ます。死亡保険金の額が大きい場合には、妻を受取人のままにしておくと、妻の相続時に、改めて、それについての遺産分割協議をする必要があります。しかし、妻の生前に、受取人を定めておけば、その分に関する限りでは、協議対象財産が減るという意味もあります。 従いまして、遺産相続の内容等も想定した上での、柔軟な対処が出来ることになりましたので、このケースに当てはまる方は、受取人の変更をご再考されてはいかがでしょうか? |