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日本企業のシンガポールへの進出について−2
弁護士 礒川剛志
平成22年4月15日更新
シンガポールに進出する場合の方法としては、@現地法人(株式会社)を設立する、A日本親会社の支店を設置する、B駐在員事務所を設置する、という3つの方法があることになります。もっとも、上記Bの駐在員事務所は市場調査等しかできず、営業活動を行ってはならないことになっていますので、現実には、上記@の現地法人設立か、上記Aの支店設置しかないことになります。
現地法人を設立することのメリットとしては、一般的なことですが、親会社から法的に独立した存在ということが言えます。例えば、親会社と異なる雇用政策や会社運営を行うことも可能です。また、シンガポール特有のメリットとしては、現地法人を設置することにより、業種や事業規模によっては、税務上の優遇措置が受けられる可能性があります。これに対して、現地法人を設置するデメリットは、清算手続にある程度の時間とコストを要するということが指摘できます。
支店設置のメリットは、例えば、建設会社の入札条件や金融機関の許認可等、会社の規模や実績、資本金の額が問題となるケースでは、日本親会社を主体とした方が有利ということになります。また、閉鎖も比較的容易に行うことができます。これに対して、デメリットとしては、日本親会社と法的に分離しておらず、例えば、紛争が発生した場合、シンガポールで日本親会社自身が訴訟を起こされるといった事態も発生するわけです。
以上のようにそれぞれメリット、デメリットがありますが、基本的には現地法人を新たに設立するというケースが圧倒的に多いと思われます。
新たに現地法人を設立する場合、株式会社を設立することになりますが、シンガポール会社法上、2種類の株式会社が存在しています。すなわち、“プライベート・カンパニー”(定款上、株式譲渡制限規定があり、かつ株主数が50名以下の会社。「○○ Pte.Ltd」)と、“パブリック・カンパニー”(プライベート・カンパニーではない会社。いわゆる上場会社のことではない。「○○ Ltd」)の2種類です。日本企業の現地法人の場合、100%子会社にするでしょうから、通常は、プライベート・カンパニーということになるでしょう。
株式会社の設立手続は、ACRA(Accounting and Corporate Regulatory Authority)という政府機関への登記によってなされます。設立の主な手続は以下のとおりです。
@ 使用商号の予約(予約は2か月有効)
A 定款作成(基本定款と附属定款。資本金・株式引受人の選定。最低資本金制度はない。1人株主、資本金1S$の設立も
OK。取締役の選定−1名以上、但し、最低1名はシンガポール居住者。登記場所の選定)
B ACRAへの登記(インターネットのウェブサイト上で登記)
C 第1回取締役会(株主総会)の開催
実際には、法律事務所や代行業者に依頼して設立することになりますが、通常、その代行者が株式引受人となり、1株だけ引き受けて設立してしまい、設立後に、依頼者への株式譲渡や増資手続を行うというのが一般的なようです。
このように設立手続はかなり簡易です。但し、注意すべきは、既に述べたとおり、設立した会社の清算はそれなりに時間とコストが掛かるということがあります。また、ほぼ全ての会社で会計監査人の監査が必要であったり、“カンパニー・セクレタリー”といった日本にはない会社の機関があったりといった日本の会社法との違いに注意する必要があることから、やはりシンガポールへの進出に際しては専門家のバックアップが必要ということにはなるでしょう。
以上のとおり、シンガポールは小国ではありつつも、魅力のある国だと思われます。皆さんの会社でも進出を検討されては如何でしょうか?
参考資料
・「シンガポール会社法Q&A」(ジャパン・テクノロジーセンター社)