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民事訴訟以外の民事手続のIT化

弁護士 寺中良樹

令和5年12月1日更新

 このリーガルトピックスの執筆担当は、だいたい1年に1回、回ってきます。私は近年は、本題の前に時事ネタの前ふりをしています。
 この原稿を書いている最中に、羽生結弦さんの離婚が発表されました。誹謗中傷やストーカー行為が大きな原因のようです。また、旧ジャニーズ事務所の性被害を訴えられていた方が大阪府内で自殺されたという報道がありました。これも誹謗中傷を苦にされていたと仄聞します。
 最近、少し大きな事件になると誹謗中傷が当たり前のようについてくるようになったと感じられます。報道の仕方と誹謗中傷との間に心理学的なメカニズムがあるのではないかと思いますが、その辺りは措いて、とにかくSNSでの無闇矢鱈な発言とそれを簡単に拡散できてしまうシステムに何らかの対策が必要なのではないかと思っています。昨年、旧Twitterのリツイートや「いいね」が場合によっては不法行為となるとの裁判例がありました(東京高裁令和4年11月10日判決令和4年(ネ)第269号、令和4年東京高裁令和4年10月20日判決判タ1511号138頁)。とにかくインターネット上で何かを発信するということは、全世界に向けて発信しているのと同じことだ、ということを知っておいていただきたいと思います。

 さて私は、昨年のリーガルトピックスで民事訴訟のIT化についてご紹介しました
https://www.global-law.gr.jp/legal/entry164/index.html)が、これに引き続き、民事訴訟以外の民事関係手続についてもIT化のための法律が整備されましたので、これに関してご紹介します。

 先般ご紹介のとおり、民事訴訟のIT化は令和4年6月の民事訴訟法改正によって実現しましたが、これに引き続き、訴訟以外の民事手続のIT化に関する改正関連法が、令和5年6月に成立しました。
 訴訟以外の民事手続というのは、たとえば民事執行、民事保全、倒産、非訟事件、民事調停、労働審判、人事訴訟、家事事件です。この中で比較的一般市民の方々に関係がありそうなのは、たとえば家事手続や人事訴訟手続でしょうか。家事手続は、たとえば離婚調停、遺産分割調停・審判、成年後見申立などです。人事訴訟は、典型的には離婚訴訟であり、その他に認知の訴えや嫡出否認の訴えなどがこれに当たります。
 これらの手続に関する主な改正点は次のとおりです。

1 オンライン申立て
    これまで紙の書面で行われていた(法律上、一部の手続は以前から口頭でも可能とされていましたが、事実上口頭申立は使われていません)申立を、オンラインで行うことができるようになります。また民事訴訟と同様、手続代理人(弁護士)については、オンラインによる申立てが義務化されます。

2 事件記録の電子化 
   当事者から提出された書面などは、提出方法が紙であるかデジタルデータであるかにかかわらず、原則として裁判所で電子化して保管されることになります。また裁判所が作成する裁判書(審判書など)や期日の調書も、民事訴訟と同様、全面的に電子化されます。
 それに伴い、裁判記録の閲覧や複写(ダウンロード)もデジタルデータによることが可能とされました。裁判所内の端末で閲覧できるようになる外、裁判所外からもアクセスできる方法が整えられるようです。もっとも、閲覧等の範囲は裁判所の許可が出た範囲であり、秘匿決定がなされた部分は閲覧等はすることができないことは、従前どおりです。

3 期日におけるウェブ会議等の活用 
   民事執行や民事保全その他民事手続の期日を、民事訴訟と同様、ウェブ会議で行うことができるようになります。
 この中で、倒産手続における債権者集会期日をウェブ会議で開催可能としたことが目を引きます。たしかに裁判官を始めとして、破産者、破産債権者、破産管財人など多数の者が一堂に会さなくても良いとしたのは大変便利ではあるのですが、債権者集会期日は基本的には非公開ですので、債権者その他の人の参加資格をどのように確認するのか(参加資格のない者の排除をどのように担保するのか)が問題だと思います。
 また、家事事件の期日は従来から、「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」には電話会議やウェブ会議によることが認められていましたが、遠隔地要件を廃止し、電話会議等を行うことができる範囲を広げました。現在、民事訴訟ではウェブ会議による期日進行がかなり浸透していますが、家事事件(人事訴訟を除く)でウェブ会議が使われることは事実上ないように思います(少なくとも私は経験がありません)。家事事件は民事事件以上に、家庭裁判所への期日出頭が当事者の負担になることが多いように感じます。元々調停期日は、調停委員と談話しながら手続が進むため、代理人がついていても当事者本人が出頭する必要が多くなります。また家事事件手続では、離婚事件でDVや子供の奪い合いがからむ、遺産分割事件などで当事者がご高齢もしくは病弱、遠方である、といった理由で、当事者が出頭することが酷である事案が多くあります。そのような当事者の出頭の負担を減らすという意味で、ウェブ会議や電話会議をもっと活用していただきたいと、個人的には考えています。
以上 
                                                                    

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