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借地権譲渡に関する法律関係

弁護士 小西宏

令和5年10月2日更新

【事例】
 AはC、D、Eの親であるBの代から土地甲を賃借しており、その借地上に建物乙を建てて住んでいます。Aは従前Bに地代を支払っていましたが、Bが亡くなった後は、Cが地代を受け取っています。Bが亡くなり、現在は土地甲をC、D、Eが相続し、各3分の1ずつの持分で共有しています。Aはこの度、借地権ごと建物乙をFに売却しました。Fに売却する際、借地権を譲渡することについて、Cの口頭の承諾を得ました。
 売却後しばらくして、C、D、Eは、借地権の無断譲渡だとして、Fに対して、借地契約を債務不履行解除し、乙建物を収去し、甲土地を明け渡す内容の訴訟を提起してきました。訴訟の中でCは借地権譲渡を承諾していないと言っています。
Fは乙建物を収去して甲土地を明け渡さないといけないでしょうか。

【解説】
 1 借地権の無断譲渡について
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲渡できません(民法612条1項)。賃借人がこの義務に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができます(同2項)。したがって、土地賃貸借契約書に借地権の無断譲渡を禁止する条項を置いているか否かにかかわらず、借地権の無断譲渡は原則として契約解除事由となります。
 借地が共有土地の場合、共有者全員の承諾が必要か問題となりますが、賃借権の譲渡承諾は、共有持分の過半数を有する同意があれば足りる管理行為と解釈されています(ただし、この解釈が定まっているわけではなく争いの余地はあります)。この解釈に従うと、B、C、Dの過半数の承諾があれば、賃借権の譲渡は認められますが、事例のようにCの承諾だけでは賃借権の譲渡は認められないことになります。
 以上のとおり無断譲渡は原則として契約解除事由となりますが、賃貸借契約が継続的な関係を基礎とする契約であることから、いまだ賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていない事情が認められる場合には、解除が否定されることになります。信頼関係が破壊されていない事情は、借地権の譲渡人と譲受人の関係性(親族間や法人成りの場合など)や譲渡による影響など個別の事情を考慮します。信頼関係が破壊されていない事情が認められた場合には、Fに対する明渡請求は認められないことになります。

2 事前の対策 
   最終的に信頼関係の破壊がなく、賃貸借契約の解除が認められないという判断が出れば問題ないのですが、そうならないリスクも高く、リスクを回避するには事前に対策をしておくべきです。まず承諾を口頭で取るのは望ましくなく、合意書など何らかの書面を残しておくべきです。また共有者など権利関係をあらかじめ調べておく必要があります(登記を調べるなど)。
 また、事前に任意の承諾が得られない場合には、裁判所に借地権設定者の承諾に変わる土地賃借権の譲渡許可を得ることが可能です(借地借家法19条)。

3 事後の対応 
   万一、借地権の譲渡承諾や信頼関係が破壊されていないとの事実が認められず、Fに対する建物収去土地明渡請求が認められる場合は、借地権設定者に対し、建物を時価で買い取るよう請求することができます(借地借家法14条)。これを「建物買取請求権」と言います。これにより土地と建物を明け渡すことにはなりますが、建物の売却代金を得ることができ、損失を回避することは可能となります。

以上 
                                                                    

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