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太陽光発電並びに屋根貸し契約について
弁護士 相内真一
令和4年10月3日更新
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2018年(平成30年)6月18日午前8時前に、大阪府北部を震源地とするM6.1の地震が発生しました(大阪府北部地震)。
直後、私の自宅は36時間停電しました。ご近所で太陽光発電のパネルを屋上等に設置していた建物が数軒ありましたが、予想に反して、それらの家屋も照明が点くことなく、通電して部屋が明るくなったのは我が家と同じ時刻でした。その後、その家屋にお住まいになっている方とお話ししたところ、「うちは太陽光パネルがあるから停電になっても平気だっただろうと、みんなに言われた。しかし、うちの太陽光パネルで発電した電気は全て業者に買い取られる契約になっていたから、1ワットたりとも自宅用に使うことはできなかった。地震になってから一部でも自宅で利用できないかと思ったが、そんなことはすぐにはできないと言われた」とぼやいておられました。
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そこで、太陽光発電の基本的な契約関係を確認してみたいと思います。
太陽光発電システムを自宅に設置した人は、発電した電気を電力会社に売って所定の代金を得ることができます。住宅での太陽光発電の売電制度として、「余剰電力の買取制度」、「全量買取制度」の二つの制度があります。
「余剰電力の買取制度」の場合、太陽光発電した電気から、自宅で使った電気を差引し、余った電気があればこれを売電します。
「全量買取制度」は自宅で消費した電力とは無関係に、太陽光発電した全ての電力を売電できる(売電しなければならない)という方式です。但し、この全量買取制度が適用されるのは、設置するソーラー・パネルの総出力が10kw以上のものだけです。具体的には、事業者が設置する太陽光発電所や、賃貸集合住宅の屋根、工場や学校の屋上にソーラー・パネルを設置する場合など、産業用途が前提となっています。日本の標準的な住宅の屋根に設置できるパネルの総出力は、せいぜい4~5kw程度と言われています。ですから一般的な住宅にソーラー・パネルを設置する場合には、余剰電力の買取制度しか使えないと考えたほうがよいでしょう。
例外的に、個人住宅であっても広い屋根があるときや、屋根だけでなくカーポートの屋根にもパネルを設置するなどして総出力を10kw以上にすれば、全量買取制度を利用できます(但し、出力以外にも各種の条件を満たすことが必要です)。私の自宅の近隣で太陽光パネルを設置していた方々は、この10kwを超えるケースだったようです。
補助金については、スマートブルー株式会社のホームページ「【令和4年度補助金】太陽光発電導入で活用できる補助金」(https://enemanex.jp/self-consumption-pv-hojokin)と株式会社新日本エネックス(本店所在地:福岡)のホームページ「【2022年最新】太陽光発電の補助金は利用できる?現在の制度を解説」(https://nj-enex.co.jp/column/182/)に詳しい説明が掲載されています。上記の補助金は、相当高額に及びますが、種々の条件が定められていますので、個別の検討が必要です。
「余剰電力の買取制度」を利用する場合、売電メーターと余剰電力計を設置する必要があり、「全量買取制度」を利用する場合は、更に、総発電電力計を設置する必要があります。太陽電池モジュールで創った直流の電気を、家庭で使用できる交流の電気に変換するための「パワーコンディショナ」という装置も必須です。
これら装置の所有者、設置費用並びに維持管理費用の定め方は、電力会社によって異同があるようです。
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売電価格については「固定価格買取制度」が定められています。10年間同一金額で電力会社が買い取るという制度です。買取価額は40円/kwhに達していた時期もありましたが、2022年度は17円/kwhに下落しました(日経新聞2022年8月27日朝刊)。
ネットでは、10年程度で初期投資の回収が可能であるとの試算があります。しかし、パネルの容量、設置場所の向き(一日の内、太陽に照られている時間の多寡)、蓄電池の購入コストが別途見込まれること等を勘案すると、一概に10年程度と言い切ることは出来ません。
以上の通り、太陽光発電の売電を計画されている方は、緻密なコスト計算が必要ということになります。さらに、4項で指摘する問題点(将来の修繕や損耗によるリスク、建物所有者が建物を売却したい場合の手続)も検討しておく必要があります。
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建物所有者が電力会社との間で直接売電等の契約をする場合もありますが、これとは異なり、発電事業者が建物所有者から屋根などを借りてパネルを設置することもあります。この場合、建物所有者は、屋根を貸すことの対価として、使用料(賃料)を取得したり、サービス(非常用電源として建物所有者が優先的に使用する、屋根の防水工事をしてもらう等)を受けることになります。
建物の賃貸借であれば、借地借家法の中の借家に関する法条が当然適用されますが、上記の場合は、「建物の賃貸借」ではなく「屋根部分だけの賃貸借」ですから、借地借家法の適用はありません。適用されるのは民法だけです。
その結果として、次のような問題が発生します。「屋根貸しの契約書」ではこれらの問題に対処するために、いろいろな規定を定めており、通常の借家契約では見られない条項があります。
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借家の場合、家主が建物を第三者に譲渡しても借主の地位が脅かされることは有りません(借主は新所有者に対して賃借権を対抗できる、と謂います)。しかし、屋根貸契約には借地借家法は適用されないので、建物所有者が建物を第三者に譲渡してしまうと、屋根の借主の賃借権は新所有者に対抗できず、パネル等の撤去を請求されることになります。そこで、屋根貸契約では、建物所有者に対して、建物譲渡に際しては屋根の借主の承諾を得ることや、無断譲渡の場合の損害賠償を定めています。
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2) |
買取期間10年間と法定されているので、屋根貸契約も10年以下ということは有り得ません。実務的には、10年間経過の後も、電力会社は買取を続けており(関西電力のホームページ「買取期間が終了する太陽光発電の取り扱いについて」〈個人客対象〉(https://kepco.jp/ryokin/kaitori/solar_power/)ご参照)、20年という契約が多いようです。このように長い期間になると、パネル自体の修繕・交換のみならず、パネルを取り付けた屋根の修繕などのリスクを考えておく必要があります。例えば、自然損耗で屋根にひびが入って一部のパネルが発電できなくなったケース、同じく台風等で発電できなかったケースなどが考えられます。
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又、建物所有者側で、どうしても当該建物と敷地を売却して現金化したいという場合、何らかの条件のもとに解約申し入れができるかどうかという問題もあるでしょう。
以上は、屋根貸しに関する主な法的論点の一部に過ぎず、ほかにもいろいろ論点はあります。
従って、太陽光発電に関する契約をする際には、専門家にご相談の上、費用負担の内訳やリスクの程度等を十分ご理解の上、契約されることをお勧めします。
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以上 |
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