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共有物に関する共有者間の債権の保護について

弁護士 松本史郎

令和4年9月1日更新

1 事案
   YとAがそれぞれ2分の1ずつの共有持分権を有するマンション(区分所有建物)で、Yが一人で全部を占有し、居住していた場合に、Aがその持分権2分の1をXに売渡し、譲り受けたXがYに対し、共有物分割請求と不当利得返還請求(持分2分の1の権利しかないのに、Yが全部を占有して居住していることによる不当利得の返還)の訴えを起こしました。
 これに対し、Yは、Xに対し、Yが10年間、Aに代わって立替払いしてきた下記①~③の支払いを求めてきました。
 マンション管理費の2分の1(持分割合。以下同じ)
 固定資産税の2分の1
 住宅ローン及び団体信用保険料の2分の1

2 検討 
(1)  これに関し、民法(254条)は、共有者(Y)が他の共有者(A)に対して有していた債権は、Aからその持分を譲受けた特定承継人(X。売買契約の買主等)に対しても支払いを求めることができると定めています。
 これは、民法254条のような定めがないと、共有者間の特約によって債務をYに対して負担するAが、自己の持分をXに譲渡することにより、その負担を免れることが可能になり、Aに一方的にその特約を破棄させる権限を与えたのと同様の結果になって不当だからです。
 しかし、他方で、このような特約を公示する手段がないことから、この特約の範囲をあまりに広く認め過ぎると、第三者(X)に不測の損害を与えることになってしまいます。
(2)  そこで、どの範囲の債権が民法254条によって保護されるのかが問題となります。
 民法254条が規定する「共有者の一人が共有物についての他の共有者に対して有する債権」について、判例はこれを限定し、「共有物分割又は共有物管理ニ関スル特約等総テ共有ト相分離スヘカラサル共有者間ノ権利関係」は共有持分の特定承継人には承継されるが、「共有物買入ノ資金ヲ他ヨリ借入レタル債務及ヒ之ヲ借入ルルニ当リ要シタル費用等ニ付キ共有者間ニ締結シタル各自ノ持分ニ応シテ之カ負担ノ責ニ任スヘキ契約ノ如キハ之ニ関スル特別ノ意思表示ナキ限リ」共有持分の特定承継人には承継されない、と判示しています(大判大8・12・11民録25・2274)。
 この判例は、民法254条所定の債権につき、「共有物分割又は共有物管理に関する特約等総て共有と相分離すべからざる共有者間の権利関係」という枠組みでその範囲を限定しています。範囲を限定する表現として「共有と相分離すべからざる共有者間の権利関係」に限るとしている点がポイントです。
(3)  また、下級審の裁判例では、共有地の一部を共有者の一人だけに専有使用させる合意(大阪地判昭和50.8.27判時808・86、仙台高判昭和42.2.20判時482・52)、共有土地とそこから湧出する温泉源につき、温泉源の利用方法、温泉源の管理費用や公租公課の負担割合等に関してなした合意(東京高判昭和57.11.17判タ492・65)などの事例について、民法254条所定の債権に該当することが認められていますが、これらの判例も前記大審院判例を踏襲するものと考えられます。
(4)   以上によると、本件事案でYがXに対して請求している①、②の債権の支払い請求は認められますが、③の債権の支払い請求は認められないことになります。

3 考察
   以上の事案と検討によりますと、Xが相共有者(Y)の権利を残した状態で、他方共有者(A)から共有持分権を購入するというケースでは、YがAのために立替えて支払った固定資産税や管理費の有無やAとYとの間にYに専有使用させる合意があったかなかったかなど、について十分調査しておく必要があります。もし、これらがあれば、Xはこれらの債務の負担を余儀なくされる可能性がありますので、せっかくリーズナブルな価格で購入した共有持分権が高い買物になることもあります。
以上 
                                                                    

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