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固定残業代(定額残業代)について

弁護士 小西宏

令和3年6月16日更新

1 はじめに
 最近、企業経営者様から従業員(退職した従業員)から残業代の請求がされているというご相談が多数寄せられます。
 今まで残業代は消滅時効(請求できなくなる期間)が2年であったため、過去2年間まで遡って請求ができました。2年分の溜まった残業代だけでも、数百万円以上になる事例がほとんどです。企業としては、この金額を一時で捻出する必要があるので、かなりの負担となります。また、法改正により、今後は消滅時効が3年に延びたため、単純に考えて企業の負担は1.5倍となりました。今まで以上に残業代への配慮が必要となってきます。

2 誤解が多い固定残業代
 企業様からご相談を受けている中で、賃金制度に組み込まれていることが多いのが、固定残業代(みなし残業代)制度です。日でいうと8時間を超えると、残業代が発生することになりますが、仕事内容によっては常に8時間を超えてしまう場合もあると思います。その場合、あらかじめ1ヶ月で発生する残業代分として定額を設定する(例えば、固定残業代3万円など)ことで、事後的に残業代を計算して支払わなくても良くする制度です。この制度を合法的に使用できれば非常に有効となりますが、固定残業代が認められる要件は厳格であり、これを守れず、固定残業代が無意味になっている企業が多数あります。

3 固定残業代が有効に認められる要件
 固定残業代が有効になるかどうか法律には書かれておらず、積み重ねられた判例に委ねられています。多数の判例が出ており、これら判例を分析すると、概ね要件は以下のとおりとなります。

 労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができること

  明確に「固定残業手当」「定額残業手当」と定めておく必要があります。

②   固定残業代としての手当が時間外労働等に対する対価としての性格を有すること
   
 雇用契約書や労働条件通知書、賃金規程などで手当の性格を明確にし、従業員への説明をしておくことが重要です。例えば、「定額残業手当」は、労働基準法37条の割増賃金(時間外、深夜、休日労働等の割増賃金)として支給する、と定めます。ただし、100時間分の固定残業代を定めるなど、過労死ラインを超える残業を推奨するような定め方は公序良俗に反し無効となります。

③    支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること、労働基準法所定の額が支払われているか否かを判定することができるよう同意の中に明確な指標が存在していること
   
   定額残業手当3万円 時間外割増賃金40時間分など何時間分の残業代なのか従業員が把握できるように定めておく必要があります。

④   固定残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること。精算の実態があること
   
 例えば、先ほどの例で定額残業手当3万円 時間外割増賃金40時間分として50時間の残業をした場合、超えた10時間分の残業代支払いが必要となります。判例を分析すると、この精算の要件は必須とまでは言えませんが、企業として労働法を遵守している姿勢を示すことは重要ですし、残業代は適切に計算して支払うことが後の争いを防ぐことができます。精算手続の煩雑さを避けたいのであれば、固定残業代で定めた時間を超えないような労働管理が必要です。

以上 
                                                                    

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