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雇用調整について

弁護士 谷岡俊英

令和2年5月8日更新

 今般、新型コロナウィルスの影響で休業を余儀なくされたことから、従業員の解雇や、無給、減給等の措置をとっている会社や店舗が見受けられます。
 しかしながら、新型コロナウィルスの影響という理由のみで解雇や減給等の措置が全て認められるわけではなく、当該措置をとる場合は慎重な検討が必要です。

 
1 解雇措置
  新型コロナウィルスの影響による解雇はいわゆる整理解雇と同様であると考えられます。
 そもそも従業員を解雇するには、客観的合理的理由と社会的相当性が必要とされていますが、整理解雇は使用者の経営上の理由による解雇であることから、通常の解雇よりも厳格に判断されています。
 整理解雇が正当とされるためには以下の4つの要素で判断されています。
 ①人員削減の必要性
 ②整理解雇選択の必要性(解雇回避努力義務を尽くしたか)
 ③被解雇者選定の合理性
 ④手続の相当性

 上記①は、預貯金や借入金の状況、配当状況、人件費の削減や役員報酬のカットがなされているかなどの事情が考慮されます。
人員削減をしないと倒産してしまうという状況までは必要はありませんが、人員削減を主張しながら、過大な設備投資や、高額な株主配当、賃上げなどを行っている場合は人員削減の必要性はないと判断される可能性が高いでしょう。
 上記②は、配転、出向、転籍、希望退職者の募集などの他の方法での調整の検討、新規採用の有無、残業抑制や賃金カット、公的制度の利用などによる調整の検討、補償の検討等を行ったかの事情が考慮されます。
 もちろん、企業や店舗の規模、形態、事業内容等によって解雇回避努力義務の程度は異なりますが、他の方法による調整を検討せずに解雇することは認められません。
 上記③は、出勤率や勤務成績、規律違反歴、解雇によって労働者が被る不利益等が考慮されます。
 上記④は、対象となる従業員への説明(解雇の必要性、内容、方法、選定基準、補償等)が行われているか、協議を行っているかが考慮されます。
 解雇対象者の同意を得ることまで要求されているわけではありませんが、理解を得られるように誠意をもって協議を行わなければならないでしょう。

2 無給・減給措置
  新型コロナウィルスの影響による無給・減給措置は当然に認められるものではありません。
 そもそも、労働契約は、労働者の労働提供の対価として使用者から賃金を支払うという契約である以上、労働者が労働を提供できなければ賃金を支払う必要はありません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
 しかしながら、民法536条2項では、「債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」とし、使用者の責に帰すべき事由によって労働者が就業できなくなった場合は反対給付である賃金を受ける権利があるとされています。
 そのため、新型コロナウィルスの影響による休業が使用者の判断によるもの(緊急事態宣言による休業要請を受けて休業するものも含まれます。)であれば無給はもちろん減給をすることは妥当ではありません。
 また、民法536条2項が労使間の特約で排除されていたとしても、労働基準法26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者は休業手当(平均賃金の60%以上)を支払わなければならないとしており、同条は特約で排除することはできません。
 休業手当は不可抗力による休業の場合には、使用者は支払義務がありませんが、不可抗力と言えるためには、①その原因が事業の外部により発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であることという要件をいずれも満たす必要があるとされていますので、例えば、リモートワークについて十分に検討していない、他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させている等の場合には不可抗力とは言えない可能性があります。
 なお、リモートワークに切り替えたことを理由に減給することはできません。これは、労使間の合意が形式的に存在しているだけでも同様です。

3 最後に
 このように、新型コロナウィルスの影響というだけで解雇や無給・減給措置が正当化されるわけではありません。
 特に、現段階では雇用調整助成金の対象が拡大されるなど様々な制度がありますので、ご自身で判断する前に一度専門家にご相談ください。

 以上
                                                                    

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