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民法改正 約款を用いた契約

弁護士 村上智裕

令和2年3月3日更新

 1  このコラムでも繰り返しお伝えしていますように本年4月から改正民法が施行されますが、この改正民法では、「定型約款」という新たな規定が設けられています。
 小さな字でびっしりと細かい取り決めが羅列されている…といったイメージのある約款ですが、現在、このような「約款」は社会において不可欠なものとなっています。
 サービスを提供する側からすれば、約款に記載された内容を遵守しなければ困る…、一方で、一つ一つ約款について利用者に内容を説明していては取引が停滞してしまう…というケースが現在社会には多々あります。
例えば、ソフトウエアを購入する際のソフトウエア利用規約、銀行取引における取引約款、保険契約における保険約款、宅配便契約における運送約款などをイメージすればわかりやすいと思います。
 このように既に社会的には広く利用されている約款取引ですが、民法の原則から考えた場合、「約款」を用いた取引形態については、何故、利用者は約款に拘束されることになるのか、直ちには説明が難しいものでした。契約の当事者は契約の内容を認識して合意しなければ契約に拘束されない、というのが民法の原則ですが、約款を用いた取引をする顧客の多くは、約款に記載された個別の条項の内容を認識していないからです。
 また、約款取引の実務においては、契約締結後にサービス提供者側が約款の内容を変更することも度々見られますが、そのようなケースで利用者が変更後の約款に拘束される理由も一義的には説明できないものです。
 そこでこのような問題を踏まえ、改正民法では、「定型約款」に関する取引について民事ルールをつくり、約款取引の法的安定性を図ろうとしています。

 具体的な「定型約款」に関する改正民法の規定は以下のとおりです。

 まず、改正民法は、「定款約款」について、①「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの」を「定型取引」と定義したうえで、②「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者より準備された条項の総体」を「定型約款」と定義しました。
 これらの要件から、事業者間において個別交渉を予定した基本合意書の契約条項などは、定型約款にはあたらないとされることになります。

 また、改正民法は、定型約款を利用して契約を締結させるためには、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたこと、または②定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合において、契約の当事者において定形取引を行う旨の合意がされたことを要するとし、この要件を満たす場合には、定型約款に記載された個別の条項の内容について利用者が認識していなくとも個別の条項について合意をしたものとみなす旨の規定をおいています。

 もっとも、このように「みなす」ことが適切でないケースを防止するため、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項」については、合意をしなかったものとみなしています。

 また、相手方の合意を得なくとも、一方的に契約の内容を変更できる定型約款の変更に関する規定も設けています。
 具体的には、①相手方の一般の利益に適合するとき、または②変更が定型約款の契約目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の可能性の有無、変更の内容等、変更に係る諸事情に照らして合理的であると認められる場合に定型約款の変更が認められることになりますが、それに加えて周知方法の要件も定められており、それらの要件を満たさなければ、一方的な変更は効力を生じません。
 以上
                                                                    

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