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民法改正 ~賃貸借契約~
弁護士 永田守
令和元年12月5日更新
令和2年4月1日に民法のうち債権法の分野で改正法が施行されます。 今回は、そのうちの「賃貸借契約」に関する点について主要なポイントを取り上げてご紹介いたします。 |
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1 賃貸借の存続期間の上限の伸長 | |
民法上の賃貸借の存続期間が20年から50年に伸長されました(新民法604条1項)。これは、大型プラントや太陽光パネル事業のためといった長期の民法上の賃貸借を必要とする実務上の要請に基づき、賃貸借期間が伸長されたものです。 |
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2 賃貸人たる地位の移転及びその留保 | |
新民法では、不動産の賃借人が賃貸借の対抗要件を備えていた場合に、賃借物である不動産が譲渡されたときは、賃貸人としての地位は、原則として不動産の譲受人(新所有者)に移転するという規定が設けられました(新民法605条の2第1項)。これは、従来から判例で認められていた点を明文化したものです。これに加え、新民法では、不動産の賃借人が対抗要件を備えた場合において、不動産の譲渡人及び譲受人が、 ①賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及び②その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をした場合には、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しないとする規定を設けました(新民法605条の2第2項前段)。 これは、従来であれば、賃貸人たる地位を譲渡人に留保するためには、譲渡人・譲受人・賃借人の三者合意をするのが実務上通例の対応であったところ、賃借人が多数であるなどの理由で三者合意の形成に労を要するような場合にも、賃借人の合意を得ずに賃貸人たる地位の移転が譲渡人に留保できることとしたものとされています。 |
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3 賃借物の一部滅失の場合の賃料減額及び解除 | |
新民法では、賃借人の責めに帰すべき事由によらない賃借物の一部滅失の場合、賃借人の賃料減額請求を待たずに、当然に賃料が減額されることとなりました(新法611条1項)。 また、一部滅失により賃借物の使用収益ができなくなり、残存する部分のみでは、賃借人が賃借した目的を達成できない場合には、賃借人の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず、賃借人は契約を解除できるようになりました(同条2項)。 |
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4 賃借人による修繕 | |
新民法では、賃借物の修繕が必要である場合においては、①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に修繕をしない場合、又は、②急迫の事情がある場合には、賃借人は自ら修繕をすることができることとされました(新民法607条の2)。 従来は、賃貸人が修繕をしない場合の賃借人による修繕権については、必要費の償還請求権を認める規定(現行民法608条1項)が存在するのみであって、これを明確に認めた規定はありませんでした。そこで、新民法では上記のように賃借人による修繕権をその要件とともに規定しました。 なお、本規定に関する留意点として、本規定に基づき賃借人が修繕を行った場合、その修繕の内容や程度によっては、賃貸人と紛争となることも考えられます。そこで、賃貸人としては、修繕が必要である旨の通知があった場合に迅速に修繕を行うことはもちろんのこととして、その他、賃貸借契約書に、修繕が必要である旨の通知に際し具体的な修繕工事内容を記した見積書を添付する旨の特約を設定するなどの対策を講じることを検討しておくことが考えられます。 |
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5 不動産賃借人による妨害の停止の請求等 | |
不動産の賃借人が対抗要件を備えた場合には、不動産の占有を妨害している者に対して、妨害の停止を求める妨害排除請求ができ、また、不動産の占有をしている者に対して、不動産の返還を求める請求ができることが規定されました(新民法605条の4)。これは、これまで判例上認められていたものを明文化したものです。 |
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6 原状回復義務 | |
新民法では、賃貸借契約においては賃借人が原状回復義務を負うことが明示的に規定され、その内容について、これまでの判例及び一般的理解に基づき、通常損耗及び経年変化並びに賃借人の責めによらない損傷は、賃借人の原状回復義務の範囲に含まれないことが明確にされました(新民法621条)。 なお、本規定は任意規定であるため、契約上賃借人に通常損耗等の原状回復義務を負わせることも一定の限度で可能とは解されるところですが、賃借人が消費者である場合には、本規定よりも消費者に不利な特約は、消費者契約法10条により無効となる可能性があることに留意が必要です。 |
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7 その他 | |
以上のほかにも賃貸借契約に関して、新民法ではいくつかの改正点がありますので留意が必要です。とくに、賃貸借の規定で改正されている点ではないものの、賃貸借契約に関する改正で重要な点がありますので最後に触れておきます。それは、保証に関する規定の改正により、賃貸借契約において賃借人の賃貸人に対する債務につき個人を保証人として保証契約を締結する場合に、保証人が責任を負う限度額である極度額を定めなければ保証契約が無効となってしまうというものです。新民法施行後に、従来のままの契約書(保証の極度額が定められていないもの)を使用したため、実は保証契約が無効であったという事態が想定されますので、十分ご留意いただければと思います。 | |
以上 |