ホーム > リーガルトピックス >令和元年 >台風被害に関する法律問題について
台風被害に関する法律問題について
弁護士 田中素樹
平成31年1月16日更新
(はじめに)
昨年夏、台風21号により、西日本を中心として甚大な被害が発生したことは記憶に新しいところです。今回のリーガルトピックスでは、台風被害に関連して想定される法律問題について、具体例を通じてご説明致します。
|
第1 設例1 |
1 質問 |
|
借りている車庫のシャッターが台風で飛ばされてしまいました。このような場合、①修理をするよう、貸主に請求することはできますか?また、②貸主が修理をしてくれない場合、いかなる措置を取ることができますか?
|
※ |
(賃貸物の修繕等) |
|
第六〇六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 |
※ |
(賃借人による費用の償還請求) |
|
第六〇八条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。 |
※ |
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等) |
|
第六一一条 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
|
|
2 質問に対する回答 |
|
民法606条1項により、貸主は修繕義務を負います。したがって、①については、借主は貸主にシャッターの修理を請求することができます。
では、②のように、貸主がなかなか修理をしてくれない場合はどうすればよいでしょうか。民法608条1項によると、本来貸主が負担すべき必要費を借主が支出した場合、借主は貸主に対してその金額の支払いを請求できるとされています。したがって、自分で業者を見つけることができる場合などは、先に自分で修理してから、修繕費を貸主に請求する方法をとることが考えられます。
また、民法611条1項によると、修理されるまでの間、賃料を引き下げるよう請求することもできます。設例の場合ですと、その周辺におけるシャッターのない車庫の賃料あたりが相場となるでしょう。なお、この場合、滅失時点から賃料が減額されていたものとして、過分に支払った分も遡って返還請求することができるとされています。
また、同条2項によると、賃貸借契約の解除をできる可能性もあります。もっとも、車庫のシャッターがなくとも車を駐車するという主目的は達成できることが多いため、「残存する部分のみでは…目的を達することができない」とまで言える可能性は低いと考えられます。アパートの玄関ドアが滅失したような場合ですと、解除できることがあるでしょう。
|
第2 設例2 |
1 質問 |
|
台風で自宅の瓦が飛ばされ、隣の家の自動車の窓ガラスを割ってしまいました。このような場合、修理費用を支払わなければならなりませんか?
|
※ |
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) |
|
第七一七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 |
|
2 質問に対する回答 |
|
先の台風21号のような大型台風の場合は、賠償しなくてもよい可能性が高いでしょう。
民法717条1項によると、瓦の「設置又は保存に瑕疵(≒欠陥)」がなければ賠償責任を負うことはありません。気象庁によると台風の目安は風速17m/sで、屋根瓦は風速20m/sを超えると飛ぶことがあるようなので、かなり弱い台風でない限り、台風によって屋根瓦が飛んだからといって、直ちに設置又は保存に瑕疵があったことにはならないでしょう。
一方で、たとえば以前屋根瓦が外れた際、応急処置的に瓦を被せておいたがそのまま放置しており、その後にきた台風で瓦が飛んでしまった、などの場合であれば、「設置又は保存に瑕疵」があったといえるでしょう。ただし、このような場合であっても、台風21号のような大型台風がきたような場合であれば、やはり賠償責任を負わない可能性があると考えられます。瑕疵がなくても瓦は飛んだと判断できる場合は、損害との因果関係を欠くからです。
|
(おわりに) |
2つの設例を通して簡単な説明をしましたが、基本的には話し合いで解決する事柄も多々ありますし、これらはあくまで原則についての説明にすぎません。具体的な状況に応じてとるべき対応が異なることもあるので、個別的には弁護士に相談されることをお勧めします。 |
以上 |
|
-