本文へ


リーガルトピックス(Legal topics)

ホーム > リーガルトピックス >平成28年 >宗教法人設立当初の役員の選任について

リーガルトピックス(Legal topics)

一覧に戻る

宗教法人設立当初の役員の選任について

弁護士 相内真一

平成28年9月12日更新

 会社法第38条は、株式会社の設立時役員等の選任手続を定めています。
 しかし、宗教法人法では、設立時の代表役員等の選任方法が定められていません。機関構成としても、代表役員、責任役員に関する条文はありますが、責任役員会、評議員会、総代会等、宗教法人でよく見受けられる組織に関する条文は有りません。そもそも責任役員の選任方法すら同法では定められていません。
 そこで、設立当初の宗教法人の代表役員等の選任方法を、宗教法人法と以下の文献並びに通達を通じて考えてみたいと思います。尚、本稿の対象とする宗教法人は、単立で、機関構成は、評議員会、責任役員会と代表役員のみとし、総代会は予定されていないものとして検討します。
 
1 宗教法人の事務(二訂版)  
        著作権所有者
        発  行 所
  文 化 庁
  株式会社 ぎょうせい  
        平成二六年七月三〇日 第一刷発行
                              以下、「文献1」といいます  
2 文宗第二三号   昭和二六年七月三一日
       都道府県宗務事務所管局(部室)長あて
       文部省大臣官房宗務課長代理通達
       通達名 「宗教法人に関する事務処理について」
                              以下、「本通達」といいます。

(参考) 文化庁ホームページ
        http://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/tetsuzuki.html
  
 1  宗教法人法第13条4号では、認証申請書に
    代表役員に就任を予定されている者の受諾書
を添えて、これらを所轄庁に提出して認証を申請しなければならない旨、定められています。つまり、認証申請書提出時点では「代表役員予定者」が確定していることが要請されているわけです。
 そして、所轄庁の認証の後に行う設立登記に関して定める同法第52条2項6号では、設立時の登記事項として
   代表権を有する者の氏名、住所及び資格
が必要であると定められており、ここにおいては、「代表役員予定者」ではなく「代表権を有する者」の氏名等の明示が要請されています。
 更に、同法63条1項では、設立登記の申請者は、
   宗教法人を代表すべき者
であると定められていて、ここでも「予定者」との文言はありません。
 しかし、前述の通り、設立時役員の選任方法は、法定されていません。

 2  そこで、設立時の宗教法人を代表すべき役員の選任方法について、法律の考え方と登記実務とはどのようになっているのかを検討したいと思います。
 まず、規則認証申請の時点では、「予定者」に過ぎないことは明らかです。
 では、認証された時点ではどうでしょうか。
 文献1の23頁では、
        「認証」とは、宗教法人法が定める一定の要件を備えていることを公に確認する行為です。
と記載され、文献1の24頁では、
  宗教法人は設立の登記によって成立します。仮に認証を成立要件とした場合には、未登記の段階で第三者から法人格を否認されるおそれがあり、法律関係が不安定になることから、宗教法人法はこのような制度設計を採用せず、登記を成立要件とすることにしているのです。
と解説されています。     
 以上のことから、認証されたが未登記の時点では、宗教法人は成立していないので、予め代表役員の就任を受諾していた者(法第13条4号)は、文字通り、「宗教法人の設立の登記がされて法人として成立した」時点で代表役員に就任すべき「予定者」に過ぎません。

 3  ところで、代表役員は、「規則に別段の定めがなければ、責任役員会の互選によって定める」と規定されています(法第18条1項)。 
 しかし、設立登記手続未了時点では、宗教法人自身が成立していない以上、「責任役員予定者」は存在し得ても、「責任役員」は存在していません。
 では、「責任役員予定者の互選によって代表役員予定者」を定めて、その者を「宗教法人を代表すべき者・代表権を有する者」として、設立登記が申請・受理されているのでしょうか。
 そして、登記事項に関して定める同法第63条1項所定の「代表すべき者」の資格を証するための書面として、どのような書面の添付が要請されているのでしょうか。
 以上の2点を、文献1等で確かめてみたいと思います。

 4  まず、文献1の25頁以下に、「設立登記の際に添付すべき書類」として4
種類の書類が記載されており、その三つ目に「代表役員の選任を証する書面」
という項目があります。そして、その解説は以下のとおりです。
  ①  設立当初の代表権を有する者(代表役員)が規則の附則で指名されているときは、「規則附則第〇条の記載を援用する」旨を記載すれば足ります。
 規則の定めにより総代会で代表役員を選任した時は、総代会議事録を添付します。
 包括宗教団体の代表者が任命した時は、任命書を添付します。

 5  先に述べた本稿の対象法人は、単立で総代会は無いという前提ですから、前項の②③には該当しません。そこで、①の(寺院)規則の附則について検討してみたいと思います。
 「規則の附則」に関して、宗教法人法は全く定めていません。実務の取り扱いを調査したところ、本通達がありました。本通達には規則の記載例とその解説が含まれています。附則部分の記載例とその解説は以下の通りです。

 
 附則  
1 この規則は、○○都(道府県)知事の認証を受けた日(設立の登記をした日)・(昭和○年○月○日)から施行する。
2 この規則施行当初の代表役員及びその他の責任役員は、左の通りとする。
代表役員 何某
責任役員 何某
責任役員 何某
・ 「昭和○年○月○日」の日附は、認証を受けた日又は設立の登記をした日と一致するように記載する。
・ ○○の職にある者をもつて代表役員に充てた場合には、この規則の施行とともにその者がそのまま初代の代表役員となるから、この点に関する附則の規定は必要でない。責任役員についても同様である。


 6  本通達の記載例で、設立に際して認証申請を行う際に添付すべき書類の一つとして規則の附則を挙げています。そして、上記の本通達の記載によれば、附則に代表役員の記載)がある以上、そこに記載された人物が法63条1項所定の設立登記の申請者たる「宗教法人を代表権すべき者」であり、法第52条2項6号所定の設立時の登記事項たる「代表権を有する者」であることを当然の法解釈としています。

 更に、前述の記載例の附則2の解説部分には、      
      「○○の職にある者をもつて代表役員に充てた場合には、この規則の施行とともにその者がそのまま初代の代表役員となるから、この点に関する附則の規定は必要でない。」
 との記載があります。
「・・・の職にある者をもつて代表役員に充てる」とは、例えば、「宗教上の主宰者としての住職や宮司等を、宗教法人の代表役員とすること(文献1の28頁末尾以下)」です。やはり、ここでも「代表役員たるべき者の選任について格別の選任決議等その他の機関決定」を同法は予定していません。
 更に、前述の規則記載例の附則部分の3の解説には
  「附則の不備不足のために、代表役員も生れず、その代表役員を生むべき機関も生れず、施行になっても動きがとれない、ということがないよう、注意する。」
との記載があります。要するに、本通達等に従って附則を不備なく作成することによって、設立登記時の代表役員が確定することになります。そして、附則に記載する代表役員等の選任方法は、設立中の宗教法人に任されていることになります。
 では責任役員についてはどうでしょうか。前述の記載例の附則2解説部分の末尾に、「責任役員についても同様である」と明記されています。責任役員は登記事項ではありませんから、この解説は設立時における責任役員の就任に関する文言であることは明らかです。
 従って、「同様である」とは、附則に記載された者が、設立と同時に責任役員に就任するという解釈になります。 

 7  以上のとおり、宗教法人法は、設立時役員の具体的選任方法を、設立中の宗教法人に自治に任せています。文化庁のホームページでは設立手続のフローチャートが、根拠条文を添えて示されています。その中に「設立発起人会の議決」という記載があります。この議決は、認証申請すべき規則の承認決議と設立時役員の選任決議を想定しているようです。しかし、設立発起人とか、設立発起人会の根拠条文はありません。
 以上の通り、国家は、宗教法人の機関構成等について、最低限度の事項のみ定めています。これは、信教の自由の観点から、宗教法人に対する国家の介入を出来るだけ控えるという立法趣旨が根底にあるからです。 

 以上
                                                                    

一覧に戻る

リーガルトピックス(Legal topics)