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共有不動産の共有関係解消について
弁護士 松本史郎
平成28年8月25日更新
1 共有及び共有持分権の法律的性質 |
共有とは、1個の物を複数の人で共同で所有する形態の一つです。共有の法律的性質については、各共有者が一つずつの所有権を有し、各所有権が目的物が1個であるために互いに制限し合っている状態であるといえます。このように制限された所有権を共有持分権といいます。
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2 共有関係解消の意義 |
共有者の一人が共有物を売却したり、共有分を物理的に変更するためには共有者全員の同意が必要です。また共有物を他に賃貸したり、共有物に関する賃貸借契約を解除するためには共有者の持分の価格の過半数の同意が必要です。また、相続税の納税のために相続した土地を物納する場合も、その土地が共有状態のままでは物納不適格財産として収納されません。
このように各共有者は共有物の自由な処分や利用に大きな制約を受けています。こういう制約が、共有不動産の売却や有効活用にとって大きな障害となっています。
このため、共有不動産が収益をほとんど生んでいないにもかかわらず、共有者は、毎年多額の固定資産税等を支払い続けたり、共有者に相続が発生したときには、その相続人に多額の相続税が課税されるという結果を招いています。
共有不動産は、これを処分又は有効活用することにより、固定資産税額をはるかに上回る収益を生み出し、また相続発生の際の相続税納税に備えることが可能となります。このためには、まず共有関係を解消することが必要です。
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3 共有関係解消の方法 |
(1) |
現物分割 |
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現物分割とは、共有物を物理的にそのまま分割する方法をいいます。土地を分筆して分けるなどがその例です。建物についても区分所有として各共有者がそれぞれ独立の所有権を取得させるのも現物分割にあたります。分割後の土地、建物の現実的な利用のことを考えると、現物分割に適した土地、建物はそう多くはありません。 |
(2) |
換価による分割 |
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換価による分割とは、共有物を他に売却し、その代金を共有者間で分割する方法をいいます。 |
(3) |
代償金による分割 |
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代償金による分割とは、共有者の一人が他の共有者の持分を全部取得するかわりにその対価を他の共有者に支払う方法をいいます。
不動産につき、代償金による分割が行われる場合、代償金を受ける者は持分移転の登記義務を負います。 |
(4) |
価額賠償による分割 |
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価額賠償による分割とは、現物分割を基本とし、その過不足を価格賠償により調整する分割方法をいいます。
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4 共有関係解消の手続 |
(1) |
裁判外の手続 |
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裁判外の共有物分割の手続としては、共有者全員による共有物分割の協議という手続があります。
この手続による場合には、分割の方法には何らの制限がないので柔軟な分割が可能となります。
協議によって分割する場合の分割方法として、前記のとおり、(イ)共有物をそれぞれ現物で分割する現物分割、(ロ)共有物を売却してその代金を分割する換価による分割、(ハ)共有者の一人が他の共有者の持分を全部取得するかわりにその対価を他の共有者に支払う代償金による分割、(ニ)現物分割を基本としてその過不足を価額賠償により調整する分割等があります。協議が成立する限り、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の分割を組み合わせた分割方法も可能であり、また持分割合に厳格に対応して分割をする必要もありません。
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(2) |
裁判上の手続 |
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分割について共有者間の協議が調わない場合は、共有物分割の調停を簡易裁判所に申立てる方法もありますが、調停手続自体、調停委員が仲に入り、当事者の協議、分割の形成を斡旋する手続ですから、調停手続でも当事者の協議が調わない場合には調停不成立となります。その場合には、分割を求める共有者は、他の共有者を被告として共有物分割の訴えを裁判所に提起して、共有物の分割をすることとなります。
(イ) |
訴の要件 |
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裁判による分割を請求する訴の要件としては、分割につき「共有者間に協議が調わない」こと(民法258条1項)を要します。 |
(ロ) |
訴の性質 |
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共有物分割の訴は、形成の訴といわれています。分割の訴が形成の訴の性質をもつことから、判決が確定すれば当然に分割の効果を生ずることになります。 |
(ハ) |
訴の当事者 |
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判例は、訴の当事者は共有者全員であることを要するとしています。 |
(ニ) |
分割方法 |
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裁判所は、共有物の種類、性質、利用方法、当事者間の利益等の諸事情を勘案して分割を行います。分割の方法は現物分割を原則とし、現物分割が事実上もしくは法律上不能であるか、又は現物分割の方法によると著しく共有物の価額を損する虞れがあると認められるときは現物分割に代わる方法として共有物を一括競売して、その売得金を各共有者の持分に応じて分割することになります。かつては裁判による現物分割の場合は価額賠償による調整は認められないとされていましたが、最高裁大法廷判決(最判昭62.4.22
民集41巻3号408頁)により、これが認められるようになり、裁判による共有物の分割がより柔軟かつ公平にできるようになりました。
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裁判所は共有物分割の訴えがあれば、必ず一定の分割を命じる判決をしなければならない(請求を棄却することができない)ので、共有者は裁判を利用することにより必ず共有関係から離脱できます。
したがって、協議が難しいと判断される場合は、分割協議に多大な時間を費やすよりは、裁判上の手続をとる方が時間とエネルギーのロスが少ないといえます。
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以上 |
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