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建設業法令遵守ガイドラインについて

弁護士 谷岡俊英

平成28年7月26日更新

 建設業法はそれ自体近年に制定された法律ではありません。
 しかしながら、残念ながら同法の規制のうち、特に元請業者と下請業者の関係に関する規制について元請業者が遵守できているかというと、必ずしもそうとは言い切れないことが多々あります。
 国も、法令の不知による法令違反行為を防ぎ、元請業者と下請業者が対等な関係を構築し、公正かつ透明な取引の実現を図ることを目的として、平成26年に「建設業法令遵守ガイドライン」を策定しています。
 しかしながら、未だに下請業者が元請業者から不当な扱いを受けたりするケースなどが絶えず、特に下請業者から多くのご相談を受けております。
 そこで、「建設業法令遵守ガイドライン」について、同ガイドラインに沿ってご紹介をさせていただきます。

1.見積条件の提示(建設業法第20条第3項))
 建設業法(以下、「法」といいます。)第20条第3項では、元請業者は下請契約を締結前に見積条件を下請業者に提示し、下請業者が下請工事の見積もりをするために必要な一定の期間を設けることされています。具体的には以下のことを行うことが挙げられております。
 ① 見積条件の提示にあたっては下請契約の具体的内容を提示すること。
 ② 下請契約の内容は書面で提示すること、作業内容を明確にすること。
 ③ 予定価格の額に応じて一定の見積期間を設けること。

2.書面による契約締結
1) 当社契約(法第18条、第19条第1項、第19条の3)
 法では、当初契約(最初に締結する契約)の際に行わなければならないことが定められています。具体的には以下のとおりです。  
 ①  契約は下請工事の着工前に書面により行うこと。ただし書面契約に代えて電子契約によることも可能。  
 ②  契約書面には法第19条第1項に定められている事項を記載すること。
 ③  注文書・請書による契約については要件を満たすこと。
   具体的要件については、基本契約書+注文書・請書の場合と注文書・請書のみの場合で要件が別れています。
 前者の場合は、㋐基本契約書に法第19条第1項第4号から14号に掲げる事項を記載し、かつ当事者の署名又は記名押印をして相互に交付すること、㋑注文書・請書には法第19条第1項第1号から3号に掲げる事項その他必要な事項を記載すること、㋒注文書・請書に、注文書・請書に記載されている事項以外については基本契約書の定めによるべきことが明記されていること、㋓注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印すること、が要件とされています。
 後者の場合は、㋐注文書・請書のそれぞれに同一内容の契約約款(法第19条第1項第4号から第14号に掲げる事項が記載されている必要があります)を添付または印刷すること、㋑注文書・請書が複数枚になるときは割印を押すこと、㋒注文書・請書の個別的記載欄に法第19条第1項第1号から第3号までに掲げる事項が記載されていること、㋓注文書・請書の個別的記載欄には、それぞれの個別的記載欄に記載されている事項以外の事項については契約約款の定めによるべきことが明記されていること、㋔注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印すること、が要件とされています。
 ④  建設工事標準下請契約約款またはこれに準拠した内容を持つ契約書による契約を行うこと。
 ⑤  片務的な内容(下請人に一方的に義務を課すものや元請人の裁量の範囲が大きく、下請人に過大な負担を課す内容など建設工事標準下請契約約款に比べて片務的な内容となっているもの)とならないものであること。
 ⑥  一定規模の解体工事等の場合は建設リサイクル法第13条記載の事項を書面に記載し、署名又は記名押印して相互に交付すること。

2) 追加工事等に伴う追加・変更契約(法第19条第2項、第19条の3)
 法では、追加工事等に伴う追加・変更契約の際に行わなければならないことが定められています。具体的には以下のとおりです。
 なお、元請人が合理的な理由なく下請工事の契約変更を行わない場合は法第19条第2項に違反し、追加工事等の費用を下請人に負担させることは法第19条の3に反するとされています。
 ①  追加工事等の着工前に書面による契約変更を行うこと。
 追加工事等の内容が直ちに確定できない場合は、下請人に追加工事等として施工を依頼する工事の具体的な作業内容、当該追加工事等が契約変更の対象となること及び契約変更等を行う時期、追加工事等に係る契約単価の額を記載した書面を追加工事等の着工前に取り交わすこと。

3) 工期変更に伴う変更契約(法第19条第2項、第19条の3)
 法では、工期変更に伴う変更契約の際に行わなければならないことが定められています。具体的には以下のとおりです。
 なお、下請人の責めに帰すべき理由がないにも拘らず工期が変更になり、これに起因して下請工事の費用が増加したが、元請人が下請工事の変更を行わない場合は法第19条第2項に違反し、下請人の責めに帰すべき理由がないにも拘らず工期が変更になり、これに起因して下請工事の費用が増加した場合に、費用の増加分について下請人に負担させることは法第19条の3違反とされています。
 また、追加工事等が発生した場合は上記2)記載の事項も遵守することとされています。
 ①  工期変更にかかる工事の着工前に書面による契約変更をすること。
 工事の着工後に後記が変更になり、追加工事等の内容及び変更後の工期が確定できない場合は、工期の変更が契約変更等の対象となること及び契約変更等を行う時期を記載した書面を工期を変更する必要があると認めた時点で取り交わすこと。

3.不当に低い請負代金(法第19条の3)
 法第19条の3では、「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。」とされています。
 これについて、ガイドラインでは以下のとおり説明されています。
 ①  「自己の取引上の地位の不当利用」とは、取引上優越的な地位にある元請人が下請人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いることをいう。 
 「取引上の優越的な地位」にある場合とは、下請人にとって元請人との取引継続が困難になることが下請人の事業経営上大きな支障をきたすため、元請人が下請人にとって著しく不利益な要請を行っても、下請人がこれを受け入れざるを得ないような場合をいう。
 地位の不当利用があったか否かは下請代金額の決定に当たり、下請人と十分な協議が行われたかどうかといった対価の決定方法等により判断される。
 法19条の3は契約変更にも適用される。

4.指値発注(法第18条、第19条第1項、第19条の3、第20条第3項)
 指値発注とは、元請人が下請人と十分に協議をせずまたは下請人の協議に応じることなく一方的に決めた代金額を下請人に提示し、その額で下請人に契約を締結させることをいいます。
 指値発注は、対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結する請負契約の原則に反するので禁止されています。
 そして、指値発注の金額が通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合は法第19条の3に反することになります。
 さらに、元請人が指値発注の金額について契約を締結するか否かを判断する期間を与えることなく回答を求めた場合には法第20条第3項になりますし、一方的に工事を強要するような場合で、書面の取り交わしが行われていない場合は法第19条第1項に反することになります。

5.不当な使用資材等の購入強制(法第19条の4)
 不当な使用資材等の購入強制とは、「請負契約の締結後、注文者が自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害すること」とされています。
 これについてガイドラインでは以下のとおり説明されています。
 ①  規制の対象は、請負契約の締結後の行為のみが対象。
 自己の取引上の地位の不当利用とは取引上優越的な地位にある元請人が下請人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いることをいう。
 「資材等又はこれらの購入先の指定」とは商品名また販売会社を指定することをいう。
 「請負人の利益を害する」とは、金銭面及び信用面において損害を与えることをいう。
 元請人が使用資材等の指定を行う場合は、見積条件として提示することが必要となる。

6.やり直し工事(法第18条、第19条第2項、第19条の3)
 ガイドラインでは、元請人が下請人に対してやり直し工事を行わせる場合であっても、以下のような規制があるとされています。
 ①  やり直し工事を下請人に依頼する場合は、やり直し工事が下請人の責めに帰すべき場合を除いてその費用は元請人が負担すること。下請人に一方的に費用負担をさせ、その結果、下請金額が通常必要と認められる原価に満たない場合は、法第19条の3に違反する。
 下請人の責めに帰すべき事由がある場合とは、下請人の施工が契約書面に明示された内容と異なる場合または下請人の施工に瑕疵等がある場合をいう。
 
 下請人の責めに帰さないやり直し工事を下請人に依頼する場合は、契約変更が必要となる。

7.赤伝処理(法第18条、第19条、第19条の3、第20条第3項)
 赤伝処理とは、元請人が、㋐一方的に提供・貸与した安全衛生保護具等の費用、㋑下請代金の支払いに関して発生する諸費用、㋒下請工事の施工に伴い、副次的に発生する建設廃棄物の処理費用、㋓上記以外の諸費用(駐車場代、弁当ゴミ等のごみ処理費用、安全協力会費等)を下請代金の支払時に差し引く行為をいいます。
 赤伝処理を行うにあたっては、ガイドラインでは以下のような規制が挙げられています。
 ①   赤伝処理を行う場合は、元請人と下請人双方の協議・合意が存在すること。
 赤伝処理を行う場合は、その内容を見積条件、契約書面に明示すること。
 赤伝処理の差引額について下請人の過剰負担とならないように配慮すること。

8.工期(法第19条第2項、第19条の3)
 ガイドラインは、工期の変更があった場合についても、以下のような規制をしています。
 ①  工期に変更が生じた場合には、当初契約と同様に変更契約を締結すること。
 下請人の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず工期が変更になり、これに起因する下請工事の費用が増加した場合は、元請人がその費用を負担すること。

9.支払保留(法第24条の3、第24条の5)
 法第24条の3では、「元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となった建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。」と規定しています。
 このように、元請人が注文者から支払いを受けた場合は、出来るだけ短い期間内に下請人に下請代金を支払うこととされています。
 そのため、正当な理由がない長期支払保留は同条又は法第24条の5に違反することになります。

10.長期手形(法第24条の5第3項)
 法第24条の5第3項では、元請人が特定建設業者であり、下請人が資本金4000万円未満の一般建設業者である場合、割引が困難な手形を交付することを禁じています。
 ここで、割引が困難な手形とは、長期手形(120日を超える手形)が挙げられており、ガイドラインでは、120日を超えない手形を交付することが望ましいとされています。

11.帳簿の備え付け・保存及び営業に関する図書の保存(法第40条の3)
 法第40条の3及び同法施行規則第28条第1項では、建設業者は、営業所ごとに、その営業に関する事項を記載した帳簿を備え、5年間(発注者と締結した住宅を新築する建設工事に関しては10年間)保存しなければならないとしています。
 これに関し、ガイドラインでは以下のような規制があるとされています。
 ①  帳簿には、営業所の代表者の氏名、請負契約・下請契約に関する事項(建設業法施行規則第26条第1項記載の事項)を記載すること。
 帳簿には契約書などを添付すること。

 以上が「建設業法令遵守ガイドライン」の概要です。
 詳細については国土交通省の下記サイトに挙げられておりますので、元請業者、下請業者ともに今一度ご確認下さい。
 → http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000188.html
 なお、当事務所では、元請業者、下請業者の両方の方々からのご相談を承っておりますので、「おかしいな」と感じられた場合にはすぐにご相談下さい。

  以上
                                                                    

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