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〜いわゆる「サッカーボール事件」最高裁判決の実務への影響(2)
責任能力なき未成年者の行為に対する親権者の監督責任について
〜いわゆる「サッカーボール事件」最高裁判決の実務への影響(2)
弁護士 東重彦
平成28年1月13日更新
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民法714条は「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」とされています。 噛み砕くと、原則として責任無能力者(例えば子供)が他人を害した場合、監督義務者(例えば親)は、被害者に対する損害賠償責任を負う。例外的に、監督義務を怠らなかったことか監督義務を怠ったことと損害発生との間に因果関係がなかったことを証明できれば、被害者に対する損害賠償責任を負わない、ということです。 これまでは、上記例外にあたることを証明することは極めて難しいとされていました。「監督義務を怠らなかった」というためには、監督義務者において責任無能力者がその加害行為をしないように監督することを怠らなかったというだけでは不十分であり、その責任無能力者の行動について一般的な監督行為を怠らなかったことを証明する必要があるとされてきたからです。 にもかかわらず最高裁は、前回の冒頭部分に記載した理由を示して、本件での監督義務者である親が監督義務を怠らなかったと判断したのです。 注目すべきは、これまでの裁判例では一種の無過失責任を課されていたと評されてきた監督義務者の責任が、一般不法行為の場合とは異なるものの、過失責任としての実質を認め、@具体的事情の下で、通常は人身に危険が及ぶような行為であるか否か、Aそのような行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなどの特別事情が認められるか否か、との基準を示し、監督義務者の責任を否定した点です。 今回の最高裁の判断は、例えば認知症患者が徘徊して、列車事故を生ぜしめ、鉄道会社が当該認知症患者の家族に損害賠償請求をするケース等の場合に、監督義務者である家族が、具体的にどの程度の監督をなせば免責されるのかといった点について、一つの具体的基準を定立したといえ、同種事案はもとより実務に及ぼす影響は大きいと思われましたので、ご紹介いたしました。 |
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以上 |