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新型インフルエンザと労務管理−1
弁護士 天野雄介
平成21年10月1日更新
新型インフルエンザは通常のインフルエンザと異なり、夏場にも患者数が増加し、この10月にもさらなる流行が予測されています。
そこで、新型インフルエンザと労務管理について2回に分けてレポートいたします。
新型インフルエンザに従業員が罹患し、従業員が休業した際には通常の賃金を支払うのか、休業手当を支払うのか、無給となるのか、いずれでしょうか。
この点、まずは会社と従業員の間の憲法ともいえる就業規則を確認する必要があります。
例えば、有給の病気休暇制度を規定している会社は、当該制度の適用がある限り就業規則及び賃金規定に定められた賃金を支払うこととなります。
また、月給制の会社において病気による欠勤の際には減給しないという扱いをしている会社においても通常の賃金を支払うことになりそうです。
問題は日給月給(出勤1日当たりいくらで給与が支払われる給与体系)の会社の場合や月給制であるが欠勤した場合はその日数分減給する会社の場合であって、かつ就業規則等に特別な規定がない場合です。
新型インフルエンザについては感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症予防法といいます。)が規定しています。
感染症予防法第18条はインフルエンザに罹患した人の就業制限を規定しています(ただし、この規定の適用は原則として保健所ごとの協議会の意見が必要など手続きが厳格な上、従わない場合は罰則まで規定されていますので、発動される可能性は低いと思われます)。
また、感染症予防法第44条の3はインフルエンザに罹患した人の外出自粛要請を規定しています。(厚生労働省 新型インフルエンザ対策の運用指針 参照 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_taisho.html)
この要請には強制力はありませんが、協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない、とされています。
このような法律で就業が禁止されたり自宅待機を要請された休業の場合は賃金や休業手当は必要ないと解釈できます。
これらを法律解釈すると下記のようになります。
民法536条1項は、「当事者双方の責めに帰することが出来ない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」と規定し、民法536条2項は「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」と規定しています。
本件では、新型インフルエンザの罹患という会社・従業員双方の責めに帰することが出来ない事由によって、労務の提供という債務を履行することができなくなったときは、債務者としての従業員は反対給付という賃金を受ける権利を有しない、と解釈でき、賃金の支払い義務がないといえるでしょう。
また、休業手当についても、労働基準法第26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」に休業手当を支払わなければならないと規定されており、同様です。
それでは行政機関等の要請等がない場合はどうなるのでしょうか。
(次回に続く)