平成24年8月の労働契約法改正についての再確認(VOL.1) (弁護士 谷岡俊英)
平成24年8月10日、「労働契約法の一部を改正する法律」が公布されています。
主な改正点は、①有期労働契約の無期労働契約への転換、②「雇止め法理」の法定化、③不合理な労働条件の禁止、の3点です。
これらの改正点のうち、①と③については平成25年5月1日、②については平成24年8月10日に施行されているため、既にご承知のこととは思います。
しかしながら、①については実際に問題となりうるのが少し先ということもあり、十分なご留意をいただけていないご相談を受けることも少なくありません。
そこで、今回は、①について再確認の意味でご説明をさせていただきます。
1 創設された制度
同一の使用者との間で締結された2つ以上の有期労働契約の通算の契約期間が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申込みにより、無期の労働契約に転換する。
2 対象となる契約
平成25年4月1日以降に締結された労働契約が対象です。同日以降に更新された労働契約についてもこれに含まれますが、通算の起算時点は平成25年4月1日以降の更新時とされ、ここから5年となります。
3 要件
(ⅰ)同一の使用者との間の有期労働契約であること
(ⅱ)2つ以上の有期労働契約の契約期間の通算が5年を超えていること
(ⅲ)労働者から無期労働契約への転換の申込みがなされること
4 各要件についての説明とコメント
1)(ⅰ)同一の使用者との間の契約であること
・ 事業主単位で判断され、有期契約期間途中や契約期間満了の際に事業場が変わった場合であっても契約期間は通算されます。
【コメント】
・ 労働者の就業形態が変わらないにもかかわらず、無期転換申込権の発生を阻止する意図で派遣形態や請負形態の名を借りて労働契約の当事者を変更した場合は、通算契約期間上は「同一の使用者」と解されます。
2)(ⅱ)2つ以上の有期労働契約の契約期間の通算が5年を超えてること
・ 2つ以上の有期労働契約であればよいので、更新が1回でも行われていればよいことになります。
・ 2つ以上の有期労働契約の契約期間は、全て途切れることなく続いていなければならないわけではなく、契約のない期間があっても構いません。
・ もっとも、一定期間以上の契約がない期間があった場合には、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間には含まれないとされています(クーリング制度)。この一定期間は有期労働契約の契約期間によって異なります。詳細は以下の表のとおりです。
【コメント】・ 通算契約期間の計算は、労働契約の存続期間で計算されますので、育児休暇等で実際に勤務をしなかった場合であっても、通算契約期間に含まれることになります。・一定の要件を満たす場合、5年以上の有期労働契約を締結することも認められます(労働基準法14条)が、この場合は、5年が経ったとしても「2つ以上」の要件を満たさないため、無期転換申込権は発生しません。この場合は、当該契約の更新後の契約期間の初日に無期転換申込権が発生することになります。
3)(ⅲ)労働者から無期労働契約への転換の申込みがなされること ・無期労働契約への転換は通算契約期間が5年を超えたら当然に認められるわけではなく、労働者の申込が必要です。・また、労働者は通算契約期間が5年を超えた段階で無期転換申込権を行使しなければ同申込権を失うわけではなく、再度有期労働契約が更新された場合は、新たに無期転換申込権が発生し、無期転換申込権を行使することが可能です。
【コメント】 ・申込は口頭で行っても構いませんが、申込の有無についての争いを防ぐために書面で行った方がよいでしょう。・無期転換申込権は事前に放棄させる旨の合意は当然に無効とされていますが、事後に放棄させることについては当然には無効とはならないと解されます。
次回は、無期転換申込の効果等のご説明をさせていただきます。
以上