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弁護士法第23条の2の照会と個人情報保護について
−大阪弁護士会と三井住友銀行との協議結果−

弁護士 相内真一

平成27年5月15日更新

1 弁護士法第23条の2には、
1項 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2項 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
   と定めがあります。
 弁護士には、国家権力を背景としての強制的な証拠収集手段がありませんので、この制度(以下、23条紹介といいます)は、裁判所を通じて行われる調査嘱託手続と並んで、多岐にわたって利用されてきました。

 この紹介先の中で、過去、照会に対する回答を殆どしてもらえなかったケースがありました。
 債権回収を依頼された弁護士が、後日の差押えを前提として、債務者の資産調査のために、23条照会を利用して、金融機関に対して、債務者に帰属する預金等の有無とその額等を照会しても、私が弁護士登録した昭和54年度以降長年にわたって回答して戴ける金融機関は皆無でした。のみならず、一時期は、弁護士会自身、このような申出をした弁護士に対して、「金融機関からの回答が望めない」として、照会をすること自体、消極的であったという話も聞いたことがあります。
 言うまでもなく、預貯金の有無と額、預入先は、経済的な面で当然保護されるべき個人情報で、預金者に対して守秘義務があります。従って、金融機関にとって、それらを容易く開示できないことは言うまでもありません。
 他方、個人情報保護法では、「法令に基づく場合」には「あらかじめ本人の同意を得ないで」「個人データを第三者に開示」出来る旨の規定があります(同法第23条1項1号)。

 23条照会と金融機関の守秘義務、並びに個人情報保護法との関係で、真っ向から判断を示した最高裁の判例は未だ無いようです。従って、現時点では、個人情報保護法第23条1項1号に言う「法令に基づく場合」の中に、弁護士法第23条の2が含まれることが確定したわけではありません。
 もっとも、高裁判決と地裁判決は何件か言い渡されています。その主流的な考え方は以下の通りです。 
 23条照会は、司法制度の一部であり顧客に対して守秘義務を負っている金融機関であっても、正当な理由の無い限り、預貯金の有無等に関する個人情報を回答する義務がある。
A  金融機関の回答義務は、申出をした個別の弁護士ではなく、紹介者である弁護士会に対して負うものである。金融機関の回答によって申出をした個別の弁護士が得る利益は反射的利益に過ぎない。申出をした個別の弁護士は金融機関に対して回答を求める権利は無い。
B  そこで、金融機関等が回答を拒絶したとしても、申出をした個別の弁護士(或いはその依頼者)に対する不法行為は成立せず、勿論、金融機関は、損害賠償債務を負わない。
C  尚、市町村長に対して、特定の人物の前科等について23条照会がなされて、市町村長側から、本人の承諾を得ることなく回答がなされた案件について、最高裁は、「前科等については、照会に応じて回答する事も許されないわけではないが、その取扱いについては格別の取り扱いが要求される」と判示しています。

 従いまして、最高裁の判断が示されるまでは、23条照会に対する回答をするか否かは、金融機関の判断如何ということになります。
 照会に応じたことが守秘義務違反となれば、金融機関は顧客からの損害賠償に晒されることになります。
回答を拒絶したことが個人情報保護法第23条違反となれば、金融機関は、照会元の弁護士会或いは申出弁護士(乃至はその依頼者)からの損害賠償に晒されることになります。
 結局、金融機関としては、いずれの訴訟リスクがより高いのかを比較検討して判断せざるを得ず、現時点では、守秘義務を重く見る金融機関が多数を占めていることは間違いありません。

 このような状況の中で、大阪弁護士会と三井住友銀行との間で、画期的な合意が成立し、平成26年7月1日からその運用が開始されています。
 即ち、所謂「債務名義」を取得した債権について、所定の様式に従って債権差押え命令のために同銀行の全店紹介を掛けた場合には、債務者が預金口座を有する支店名と回答日時点の残高等の回答が行われるようになりました。
但し、公正証書については認められていません。大阪弁護士会長名による会員へのお知らせ書面はこちらです。

   弁護士法第23条の2の照会と個人情報保護について −大阪弁護士会と三井住友銀行との協議結果− (46KB)

 確定判決等の取得が条件とされているため、判決前或いは訴訟提起前に預金を仮差押えすることには役立ちませんが、それでも、従来の金融機関の基本的姿勢から、大きく踏み込んだ内容の合意です。ただ、現時点では、「大阪弁護士会と三井住友銀行との間での合意」であり、このような取扱いが全国的、全金融界に普遍化するかどうかは、明らかではありまません。少なくとも、本稿出稿時点では、追随する動きは無いようです。
以上
                                                                    

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