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諫早湾における開門をめぐる裁判について

弁護士 天野雄介

平成25年12月10日更新

 諫早湾における開門をめぐる裁判において、平成22年12月6日、福岡高等裁判所は開門を命じました(以下、第1事件といいます)。
 第1事件は確定し、国は判決に基づき開門の準備を進めていたところ、干拓地の農業者らが開門を差し止める仮処分申請を長崎地方裁判所に行ない、平成25年11月12日、同裁判所は国の開門を禁じる仮処分決定を出しました(以下、第2事件といいます)。
 通常、同一当事者間の訴訟においては、確定した判決と矛盾する判断がされないという拘束力(既判力といいます)があり、このような事態は生じません。
 しかし、本件両事件では被告は国であり同一ですが、原告は第1事件は開門を求める漁業者、第2事件は開門に反対する農業者、と異なるため既判力は及ばず、相矛盾する判断がされました。
 このような場合、困るのは国です。
 一方では第1事件の福岡高等裁判所で命じられた開門をする義務があるのに対し、他方では第2事件の開門してはいけないという長崎地方裁判所の命令にも従う義務があるためです。
 このような場合、@福岡高等裁判所の方が上級裁判所であるからこれが優先するという説、A福岡高等裁判所の判決は終局判決であり確定していることから仮処分という不確定な処分より優先するという説、B長崎地方裁判所の方が後に出された判断であるため優先するという説などが考えられますが、判例や通説などはありません。
 この問題が現実に問題となる場面は、第1事件の原告らが強制執行を申し立てた場合です。
 強制執行には直接強制(例えば預金の差押など)、代替執行(例えば、家屋の撤去など)、間接強制(命令に従うまで一日いくらを支払えとして心理的に強制する方法)がありますが、本件では直接強制も代替執行もおそらく困難ですので、間接強制を申し立てることになりそうです(実際にそのような動きもあるようです)。
 漁業者側から、第1事件判決に基づき間接強制などの強制執行が申立られた場合には、確定判決が存在する以上、申立を受けた裁判所は、国が何らかの対抗措置を取らない限り、強制執行を進める他はないと考えられます。
 国は、この強制執行を止めるために、請求異議の訴え(民事執行法35条)を提起すると同時に、異議訴訟の本案提起に伴う強制執行停止の申立(民事執行法36条)を行ない、漁業者の強制執行を一時的に止める手続をしなければならないのではないでしょうか。
 国がこの請求異議の訴えを提起した場合、第1事件判決と矛盾する第2事件仮処分決定の存在が、請求異議の訴えの理由となるか否かは、難しい問題であり、先例も見当たりません。
 私見では、第2事件仮処分決定が効力を有する限度(すなわち、長崎地裁訴訟の本案判決が出るまで)は、第2事件における仮処分の発令は、福岡訴訟の口頭弁論終結後に生じたもの(民事執行法35条2項参照)に該当するとして、請求異議の訴えを認めるべきと思われます。
 しかしこれは、法律的にも政治的にも難しい問題であるので、裁判所はおそらく、強制執行停止の申立を認めた上で、異議訴訟の本案判決は、第2事件の本案判決が出るまで、待つのではとも考えられます。
 とすれば開門派とすれば裁判に勝訴したにもかかわらず自己の利益を実現できない状況となりますが、現在提起されている第2事件の本案事件において、補助参加(利害関係がある第三者が訴訟に参加すること)をして主張立証を尽くし、第2事件の本案事件で棄却判決を得るための活動を行うという方法により自己の利益の実現を目指すことが考えられます。
 国としても、利害関係を有する営農者や漁業者に主張立証の機会を十分に与え、各訴訟に補助参加した関係者の訴訟活動を妨げないという姿勢が責務であると思われます。
 以上
                                                                    

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