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いわゆる「サ高住」の現状と展望

弁護士 相内真一

平成25年7月16日更新

 「サービス付高齢者専用住宅(通称 サ高住)」とは、平成23年10月20日に施行された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」によって創設された制度です。従来は、高齢者円滑入居賃貸住宅(通称 高円賃)、高齢者専用住宅(通称 高専賃)、高齢者向け優良賃貸住宅(通称 高優賃)という3種の高齢者向けの住宅制度がありましたが、上記法律によって、これらを一本化する形で新たに「サ高住」制度が制定されました。
 サ高住の登録状況は、
    平成24年(2012年) 1月      8200戸
    平成25年(2013年) 1月     93911戸
とのことで、ここ1年間で10倍以上の戸数に達しています(サービス付高齢者専用住宅情報供給システムHPより)。そして、サ高住は、今後とも、政府の補助金政策も相俟って、増加の一途を辿るとの報道も見受けられます。
 本稿では、その背景を辿るとともに、高齢者向け住宅(或いは施設)の選択に際して、何を、判断材料にすべきかと言うことも併せて検討します。

 まず、サ高住が創設された背景を検討します(以下の文面は、株式会社Tプランニング&サポートのHP(http://www.mctv.ne.jp/~tplan-s/)からの引用が含まれていることを、お断りしておきます)。
 平成18年、小泉内閣のもとで、「医療制度改革」が行われるとともに、介護保険制度における地域密着型と呼ばれる制度が設けられました。そして介護保険サービス事業者の指定は地方自治体の権限となり、「特定施設入居者生活介護事業者」の指定やグループホーム等の入所系施設の開設数を、介護保険事業計画に基づいて「計画的に整備する方針」が明らかにされました。
 分かりやすく言うと、「介護付き有料老人ホーム」等に関して「新設制限」が加えられることになったということです。これは、少子高齢化の実態と相まって、医療、介護の業界にとって大きな問題となりました。
 他方、当時の制度としては、前述のとおり、高円賃、高専賃、高優賃という3種の高齢者向けの住宅制度がありました。そして、一定の基準を満たした高専賃(通称 適合高専賃)は、介護保険法の「特定施設入居者生活介護事業者」の指定を受けることが出来ました。この指定を受ける意味は、「老人福祉法所定の有料老人ホームの届出」を要することなく、介護保険サービスを提供できる「有料老人ホーム」に極めて近い仕組みを作り上げるということにあります。但し、住戸の面積、室内設備、前払い賃料の保全等の基準をクリアーする必要はありました。
 当時、(適合)高専賃に対しては、一定の補助金も交付されており、高齢者の住宅制度として大いに期待されていたようです。しかし、その後の実態を見ると、「2011年10月現在で、高専賃は6.2万戸あります。なんと平均入居率は50%と言われていますね。27戸が1棟平均ですから日本中で2300棟の高専賃が建てられました。その半分が空室ですから、当然に運営は赤字赤字、倒産倒産となる訳です。(土地活用ドットコム 久保田議道(http://www.tochikatsuyou.com/content/7/23/191/))」という評価は極端であるとしても、多くの高専賃では期待されていたような戸数と入居者が確保できず、マスコミにおいても、最近のサ高住のごとく華々しく取り上げられることはなく、ビジネスモデルとしては失敗と言う結果になったわけです。その理由は、以下のようにも言われています(老人介護施設 大樹 HP(http://www.daiju.or.jp/kenkyu/23_2_24.html))。その真否はともかく、前述のとおり、高賃等が、サ高住として一本化されたことは事実です。
@ ハード中心でソフトが不十分だった。
      → 建築、不動産業界からの参入者に多い。
  A 価格設定を誤ってしまった。
     → 建物や設備のグレードを高くし、ヘルパーステーション等を併設に
して「安心」を売りにして過度に高価格設定。思ったより「富裕層」
に反応がない。
  適切な連携事業者を見つけられなかった。
    高専賃自体は「ハコ」に過ぎない。ソフトが付加されて機能する。
  C サービス提供事業者の役割分担ができなかった。  
    連携先との競合が発生しては、利用者の取り合いになる。 

 このような経過をたどって創設されたのが、サ高住制度です。
 この制度の骨格は、
  ・  収益構造として、家賃収入のほかに、幅広いサービスに対する収入(生活支援サービス料)を得られること、
  ・  補助金を活用することによって初期投資を抑えることができ、
  ・  外部の指定介護保険サービス事業者と入居者との間で直接契約してもらうことによって、老人福祉法に基づく「優良老人ホーム」とほぼ同じサービスを入居者は享受できる一方で、同法所定の設置許可や自治体で定められている設置運営基準・設置運営指導要綱等に拘束されること無く設置運営ができること、
   にあると言われています。

 このようにご説明すると、サ高住は全く問題点の無い高齢者の介護と住宅問題に関する切り札、バラ色の制度のように見えますが、さて、その実態はどうなのでしょうか?
 老人保護法に基づく有料老人ホームを意識しつつ、サ高住の特殊性を検証してみましょう。
@ サ高住の場合、入居者は、建物所有者(サ高住運営者)との間で建物賃貸借契約を締結するとともに、外部の指定介護保険サービス事業者との間で介護サービスに関する契約を締結します。従って、入居者の負担金は、実際には、賃借建物の賃料、共益費、光熱水道費、生活支援サービス料、介護保険自己負担金、並びに後述の医療費ということになります。食堂の運営を外部業者に委託していて、入居者がそれを利用するのであれば、食費の負担も必要です(自炊も可能)。老人ホームの場合には、賃貸借という概念は有りませんから、収益構造が全く異なることになります。例えば、老人ホームであれば、「居室を替わって下さい」と言われれば応じざるを得ないのですが、サ高住であれば、入居者は賃借人という確かな権利者ですから、居室の変更を強制されることは絶対にありません。
   A サ高住では、登録のための必須のサービスとして、「安否確認と生活相談」の2点が定められているのみです。この2点は登録するための最低基準です。サ高住によって、これを超えて提供されるサービスの内容、質は、大きく異なります。ここが、制度的に老人ホームと大きく異なる点です。
   B 介護保険が適用されるという点では、サ高住も老人ホームも同じです。しかし、老人ホームでは、「基本的には」老人ホームの内部職員によって介護サービスが提供されます。他方、サ高住では、入居者は外の指定介護保険サービス事業者との間で介護サービスに関する契約を締結して、その業者から介護サービスを受けます(但し、老人ホームの中にも施設の種類によっては外部から介護サービスを受ける場合もあり、介護施設と高齢者用の住宅との区別が不明確になっていることは否定できません)。
   C 老人ホームでは、常時対応できる職員の勤務体制、有資格者の人数等について細かな規制が定められています。これに対して、サ高住では、そのような細かい規制は定められていません。従って、夜間の職員の常駐状況や介護度が重度になった場合のサービスは、サ高住によって、大きく異なります。
   D サ高住では、建設に際しての補助金のほかに、不動産取得税が軽減され、割増償却が5年間可能であるとともに固定資産税も5年間にわたって軽減されます。これは、事業者にとっては大きなメリットですが、換言すると、6年目からは税法上のメリットが消滅する(利益が減る)ことになります。しかし、それを補うために賃料をアップすることが出来るかと言うと、それは甚だ疑問です。その意味で、サ高住は、その開設に際して、十分に将来の収益構造を検討していると思いたいところです。

 以上を纏めてみます。
  @ 入居者サイドから見た検討課題
     前述の必須サービスを超えて、どのようなサービスが提供されるのかということは、事業者によって統一されていませんから、それらを比較検討する必要があります。更に、特定の医療機関との提携によって在宅医療サービスを実施しているサ高住、或いは、看護師等が常駐しているサ高住等、医療機関との提携は、様々なパターンがあります。勿論、それに対する費用負担も必要です。
 従いまして、入居を検討するに際しては、これらサービスの内容と質の比較検討をしたうえで、トータルとしてのコスト負担を十分に検討する必要があります。老人ホームに類似すると言っても、同一ではないこといことを十分に意識して、入居に際して、その差異を十分に確かめておく必要があります。
  A 事業者側の検討課題
     平成24年に介護報酬が大幅に改定されました。改訂の内容は、「同一建物減算」「2級訪問介護員のサービス提供責任者配置減算」「20分未満の身体介護中心型については要介護3以上の利用者に限定する」等、多岐にわたっていますが、上記の諸点は、いずれも、介護保険サービス事業者にとっては、減収を意味する内容です。そして、前述のとおり5年経過後は税法上のメリットが無くなるうえに、介護報酬についても、厳しい現実が待ち構えているようです。サ高住の運営事業者と外部の指定介護保険サービス事業者とは、グル―プ会社であることが多いので、この点は、サ高住の経営に直結する大きな問題です。
 従いまして、将来の収益構造についてゆるぎない計画を有している事業者のみが、この現実を超えていけるということになるでしょう。

   以上
                                                                    

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