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医薬品ネット販売の権利確認等請求事件(最高裁平成25年1月11日判決(平成24年(行ヒ)第279号))について

弁護士 谷岡俊英

平成25年1月28日更新

 平成25年1月11日、最高裁が医薬品のネット販売について重要な判断を下しましたので、ご紹介させていただきます。

1.事案の内容
 本件は、平成18年の改正後の薬事法(新薬事法)の施行に伴って平成21年に改正された薬事法施行規則において、店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(郵便等販売)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて、医薬品のネット販売を行う業者が同規則の上記各規定は広範に過ぎ、薬事法の委任の範囲外で違法であると主張した事案です。

2.最高裁の判断
  これに対し、最高裁は以下のように述べ、上記規則の一部を無効と判断しました。
 @  「憲法22条1項による保障は、狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)、旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で、厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が、これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり、その委任の範囲を逸脱したものではないというためには、立法過程における議論をもしんしゃくした上で、新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て、そこから、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。」
 A  「新薬事法36条の5及び36条の6は、いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売、授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより、その必要性等について明示的に触れているわけでもなく、医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も、郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。」
 B  「新薬事法の他の規定中にも、店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか、郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。」
 C  「そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。」
 D  「そうすると、新薬事法の授権の趣旨が、第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして、上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。」
 E  「したがって、新施行規則のうち、店舗販売業者に対し、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について、@ 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならない(159条の14第1項、2項本文)ものとし、A 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならない(159条の15第1項1号、159条の17第1号、2号)ものとし、B郵便等販売をしてはならない(142条、15条の4第1項1号)ものとした各規定は、いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。」

3.本判決の評価
 本判決で気をつけなければならないのは、本判決が一般用医薬品のネット販売等自体を禁止したことが無効であると判断したわけではないということです。
 本判決は、新薬事法を施行するために同法によって授権をされた新薬事法施行規則が、新薬事法では何ら禁止されていないネット販売等を禁じたことが、新薬事法において授権された範囲を超えるので無効であると判断したに過ぎません。つまり、新薬事法施行規則が現在の新薬事法で禁止していないことを禁止したということを問題としただけであって、今後国会において新薬事法をさらに改正し、今回無効と判断された新薬事法施行規則の当該部分を法律として規定した場合については一切判断していません。
 そのため、今後国は、同規制を行う方針を変更することはないと表明していることからすると、新薬事法を改正して今回無効とされた規定を法律の規定とすることが考えられます。
 しかしながら、法律の規定とするためには、国会の審理を経なければならず、その審理には時間がかかり、また、政治に左右されることもありますので、少なくとも当面は医薬品のネット販売が認められることになりました。
 以上
                                                                    

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