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デリバティブ取引に関する平成24年2月24日大阪地裁判決

弁護士 寺中良樹

平成24年7月20日更新

▲前回は、主に、あっせん手続について説明しましたが、今回は訴訟に関するお話をしたいと思います。
 私は以前、金利スワップ契約に関する平成23年4月27日福岡高裁をご紹介しましたが(平成23年9月1日更新分)、今回は、平成24年2月24日大阪地裁判決(裁判所HP)をご紹介したいと思います。裁判所HPでは、当事者は表示されていませんが、インターネットの他のサイトを見ますと、大阪産業大学が野村證券を訴えた事案のようです。
 この件で、原告は、12億8000万円余りの損害賠償請求を行いましたが、判決は、被告の説明義務違反を認め、原告の請求中、2億5000万円余りの請求を認容しました。

▲まず、本件で問題となった契約ですが、判決文から詳しくはわからないものの、日本円とオーストラリアドルとの間の、「フラット為替取引」であったようです。フラット為替取引は、(もちろん、いろいろとオプションはつけることは可能ですが、)デリバティブ取引の中では、比較的わかりやすい部類の取引と言えると思います。このような取引で、説明義務違反を認定したことは、これまでの裁判例の中でも目新しい判断と言えそうです。

 ▲次に、どのような点に説明義務違反を認めたか、についてですが、この点に関して判決を抜粋すると、下記のとおりです(かっこ内は筆者)。
・   被告は、本件取引の勧誘に際して、原告に対し、具体的には、本件取引は、為替変動により大きな損失が生じる可能性があること、中途解約する場合には多額の解約清算金が発生する可能性があることについて十分に理解できるよう説明すべき義務があった。
・   (証拠)における解約料の説明は、ポイントを落とした字で、「時価の変動によっては、期中での合意解約に際し、受取り超となることも、支払い超となることもあります。」と記載されているのみであって、これによっては、解約料の具体的算定方法あるいは概算額について全く推測もできず、顧客が取引を継続すべきか、解約料を支払っても解約の申入れをすべきかを判断する資料とはなり得ない。
 ・  (被告が原告に対して)本件取引について説明するに当たってことさら解約料について詳しく説明をしたとは考えられない。

 このような事情をもとに、説明義務違反を認定したというのは、かなり突っ込んだ判断であると思います。近時の銀行のデリバティブ契約に関する説明書では、ある程度、解約清算金について説明をしてあるものが多いのですが、平成19年ころ以前の説明書では、解約清算金については、あいまいな文章でしか説明していないものがほとんどです。この判決の理屈に従うと、かなり多くの事案で、解約清算金の説明について問題が発生すると言えそうです。

▲一方、本件では、説明義務違反以外の、適合性原則違反その他の原告の主張は、判決はすべて、しりぞけました。
前回にご説明のとおり、あっせん手続では、適合性原則が比較的重視されますが、裁判になりますと、説明義務違反の方がクローズアップされます。当該事案について、いずれに問題がより多く存在するかによって、選択する手続が異なるということもありそうです。

 
▲なお本件で、認容額が減額された理由は、過失相殺です。
 本件では、原告の過失割合は8割と認定されました。これは、考え方によっては微妙な数字であると思います。というのは、本件の原告は学校法人であり、おそらくその業務上、為替リスクヘッジの必要はないはずです。そうしますと、仮にこれを訴訟ではなくあっせん手続とし、説明義務違反を主眼とするのではなく適合性原則を主眼とする主張をしたとしても、証券会社側に、2割程度の負担を求めるあっせん案は出る可能性が相当高いのではないかと思います。そうしますと、もちろん結果論ではありますが、本件を訴訟とせず、あっせん手続で終了させた方が、解決が早かったのではないかと思います。
                                                                    

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