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リーガルトピックス(Legal topics)

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デリバティブ取引の問題点

弁護士 寺中良樹

平成24年7月6日更新

▲平成24年6月7日の朝日新聞の朝刊一面に、「円高 金融商品で大損失」という見出しの記事が掲載されました。その記事は、
・  近時の急激な円高によって、過去に中小企業が銀行との間で締結した為替関連の金融商品(デリバティブ取引)について、企業に莫大な損害が出ており、問題となっている。
・  全国銀行協会が運営する紛争解決機関に負担軽減のあっせんを申し立てる中小企業が急増している。
 という内容でした。
 また、駒澤大学が、証券会社に対して、84億円以上ものデリバティブ損失の賠償を求めて訴訟提起したとか、兵庫県朝来市が、仕組債で被った損害の賠償として、証券会社や銀行に対して、約4億8000万円の損害賠償請求を提起することを決定した、という報道もあります。
 私は近時、デリバティブ取引に関するあっせん手続を立て続けに取り扱っていますが、その経験を踏まえ、新聞の記事の内容について、多少の補足を試みたいと思います。

▲デリバティブ取引の問題点として、法律上、主に問題となるのは、@適合性原則と、A説明義務違反です。
@  適合性原則とは、要するに、「銀行は、デリバティブ取引をさせてはいけない会社に、取引をさせてしまった。」「銀行は、デリバティブ取引をさせてはいけない量の取引を、会社にさせてしまった。」というものです。典型的なものは、そもそもデリバティブ取引をする必要がない会社に、デリバティブ取引をさせた、というものです。
デリバティブ取引は、海外取引のある会社が、為替リスクを回避するために、締結するものです。しかし、デリバティブ取引の建て付け方によっては、単なるギャンブルのようにも使えるため、海外取引のまったくない会社が、デリバティブ取引を行なっている例があります。また、海外取引があるにはありますが、実際の経営状況に照らして、必要である以上の取引を行っていることがあります(これは、非常に多い例です)。
 A  説明義務違反とは、読んで字のごとく、銀行が、説明しなければいけないことをしなかったとか、間違った説明をした、ということです。
断定的義務の提供(「絶対に上がります(下がります)」とか、「絶対に儲かります」といったたぐいの説明)や間違った説明が典型的なものですが、デリバティブ取引でよく問題になるのは、解約清算金です。
そもそも、デリバティブ取引の解約清算金というものは、よくわからないものです。デリバティブ契約には、通常、
   ・ 銀行の同意がない限り、解約はできない。
   ・ 解約の際には、銀行が計算する違約金を支払う。
   と書いてあります。つまり、解約清算金というものは、本来、銀行の言い値なのです。
もっとも、最近のデリバティブ契約の説明書には、おおむね、銀行が解約清算金をどのようなポリシーで計算するかが、書いてあります。しかし、大学か企業で金融工学を勉強した人でない限り、読んでも絶対にわかりません。
事案によっては、説明書の内容を銀行の担当者が口頭で説明していることもありますが(説明していない事案もかなりあります)、説明されてもわかることはありません。なぜなら、銀行の担当者もわかっていないからです。

▲デリバティブ取引の問題点として、裁判(訴訟)で主に問題となるのは、説明義務違反です。しかし、あっせん手続では、むしろ、適合性原則違反の方が重要です。
 あっせん手続は、原則として1回の手続で手続を終了します。説明義務違反の場合、ほとんど必ず、言った言わない、とか、聞いた聞いてない、という、一種の水掛け論が問題となります。裁判であれば、そのような場合、証人調べを行うなどして、裁判所が、事実関係を判断しますが、あっせん手続では、そのような判断は予定されていません。あっせん手続の中で、銀行の担当者に「こう言っただろう」と問い詰めることもできません。
 適合性原則違反は、契約当時の仕入高や損益状況といった数字で、ある程度判断できるので、あっせん手続での判断に馴染みやすいのです。

▲デリバティブ取引についてあっせん手続を行う機関は、全国銀行協会(全銀協)の他に、証券・金融商品相談あっせんセンター(FINMAC)があります。前者は銀行、後者は証券会社が主体となって設立した組織ですが、銀行は、全銀協とFINMACの双方のあっせん手続を受けますので、企業としては、どちらかを選択できることになります。
 両者の手続でもっとも異なるのは、全銀協のあっせん手続は東京でしかしていないので、大阪で申し立てた場合、電話会議での参加となるところです。FINMACは大阪でもあっせん手続をしていますので、あっせん委員の面前で話をすることができます。手続の速さという観点から言うと、現在のところ、少しだけですが、全銀協の方が期日が入るのが早いように思えます。
 結果については、私の見るところ、双方に特別な優劣はないように思います。

▲ご相談をお聞きしますと、相手方の銀行が自社のメインバンクだから、とか、リスケジュールをしてもらっているから、折り返し融資を受けられなくなるかも知れない、などという理由で、問題がある契約であるにもかかわらず、あっせん手続に踏み切れないという事案が、とにかく多くあります。
 銀行が、企業があっせん手続を申し立てたという理由で、融資条件を制限するということは、独占禁止法との関係で、微妙な問題があります。銀行は、そのような問題が発生するのを恐れますので、あっせん手続を申し立てた企業に対して不利益な取扱いを行うことを、むしろ避ける傾向にあるのではないかと思います。

▲相談企業の中には、紛争解決手続とか、あっせん手続といいますと、紛争解決機関の担当者が自社から詳しく事情を聞き取ってくれて、銀行に対して自社の意見を代弁してくれる、と考える企業が、少なからずおられるようです。また反対に、全国銀行協会は銀行の団体だから、銀行のいいようにされてしまうのではないかと考える会社もおられます。
 あっせん手続は、基本的に、当事者双方に対して公平であり、あっせん委員は、双方に対して対等に接します。あっせん委員は、企業の味方ではありませんし、敵でもありません。

▲あっせん手続では、原則として1回の期日であっせん案が出ます。一発勝負ですので、事前の準備がとても重要です。法律相談に行くような感覚であっせん手続に臨みますと、問題点をあっせん委員にわかってもらえないまま、あっせん案が出てしまうことになります。
 ただ、いろいろな資料を準備して、それをあっせん期日の当日に提出して説明しようとしても、それだけの時間はないことが多いです。また、あっせん委員も、当日にいきなり色々と言われても、全部理解できないこともあります。つまり、事前の準備というのは、期日前に、主張書面を作って出すことです。

▲デリバティブ契約にもさまざまな種類があり、契約した経緯も千差万別です。しかし、私が相談を受けた中では、まったく何の問題もないデリバティブ契約というものは、ありませんでした。もちろん、いかなる契約でも弁護士がつけば何とかなるというものではありませんが、自社の契約に納得がいかないと思われる企業がおられれば、一度、ご相談をされてみては、いかがでしょうか。

                                                                    

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