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中小企業金融円滑化法(中小企業等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律)
−企業側からの対応と今後の課題

弁護士   礒川正明

平成22年8月6日更新


1. 中小企業金融円滑化法は、中小企業者及び住宅ローン借入者に対する金融の円滑化を図るために必要な臨時措置を定めることにより、中小企業者の企業活動の円滑な遂行およびこれを通じた雇用の安定、ならびに住宅ローン借入者の生活の安定を期し、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。
 この法律は平成21年12月4日施行され、平成23年3月までの時限措置の法律であります。既に施行から、約6ヶ月以上が経過した。この時期にこの法律を取り上げるのは、各中小企業者がこの法律を知って活用しているかどうか、また活用した企業は今後どうすればいいのかについて対処してもらうためです。

2.この法律の特徴は、金融機関から借り入れをしている中小企業および住宅ローンの債務者に対する直接的な援助の法律ではなく、これらに融資している金融機関に対する努力義務を求める法律である点に特色があります。すなわち、「金融機関は中小企業または住宅ローンの借り手から申し込みがあった場合には、出来る限り、貸し付け条件の変更などの適切な措置をとるよう努める」となっています。従って、借り手から、金融機関に申し入れをしない限り何も起こりません。自ら行動しなければ、この法律の恩恵を受けることはありません。対象となる企業は申し込みを検討し、行動してください。

3. 貸付条件の変更等の対象となる中小企業の範囲
 中小企業者の範囲は、「法律」において中小企業基本法等をもとに規定されているところ、「施行令」により、業種の特性に鑑み、更に中小企業として下記のとおり追加あるいは除外されるべき者を規定しています。
                                      記
追加する者:イ ゴム製造業、ロ ソフトウェア業、情報処理サービス業 ハ 旅館業、については中小企業基本法により規模要件を緩和した者、ニ 農事組合法人、ホ 漁業等を営む法人でない団体
除外する者:金融、保険業(保険媒介代理業及び保険サービス業を除く)

 以上により金融機関や大会社、及び大会社の子会社を除くほぼ全ての中小企業が対象範囲となります

4.金融機関の努力義務
 金融機関には以下の努力義務が課されています。
@ 円滑な中小企業金融
 中小企業者に対する信用供与については、中小企業者の特性およびその事業の状況を勘案し、出来る限り柔軟に行うよう努めなければなりません。 
A 貸付条件の変更等
 債務の弁済に支障が生じている(または生じるおそれがある)中小企業者または住宅ローン借入者から債務の弁済に係る負担軽減の申し込みがあった場合には、中小企業者の事業の改善、再生の可能性または住宅ローン借入者の財産及び収入を勘案しつつ、出来る限り貸付条件の変更等に努めなければなりません。
B 他機関との協力、連携
 出来る限り円滑に貸付条件の変更等を行うため、金融機関の判断に第三者の目を導入することとされ、当該企業に債権を有する他の金融機関、信用保証協会、中小企業再生支援協議会、企業再生支援機構等との緊密な連携を図るよう努力することになっています。

5. 実効性の担保
 この法律はあくまで金融機関に対して、申し出があった場合に条件変更等に応じるようにとの努力義務を規定するものであり、必ず応じなければならないとは規定していません。従って、拒否することも出来ます。しかし、金融機関が恣意的に拒否出来るのであればこの実効性が担保されません。このため、これを担保するため、「開示」「報告」を求めるとともに罰則規定をもうけています。
@ 開示
 条件変更に向けた基本方針等、体制整備の概要のほか、貸し付け条件の変更等の実施状況に係る説明書類を作成し、期末から45日以内に開示しなければならないことになっています。
A 報告
 上記開示内容に加え、謝絶、取り下げに至った案件の概要、理由を期末から45日以内に当局に報告しなければならないことになっています。
B 罰則
 上記の虚偽開示、報告等に対しては、1年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人の場合2億円以下の罰金)が科せられます。

 以上により、金融機関は条件変更等の申し入れを受けた場合、理由なくこれを断ることが出来ないだけでなく、取り下げの圧力をかけることも困難となります。金融機関の運用実態は、よほど明確な理由が無い以上条件変更等に応じているようであります。

6.条件変更等の申し入れをしたことによる債務者区分の変更をしない。
 通常の金融業務においては、債務者からの、約定弁済の条件変更の申し入れがあれば、債務者区分のランクを下げ、正常先から要注意,要管理債務者というように債務者ランクを下げ、新規融資を受けにくい先とする取り扱いとなっています。しかし、今回の円滑化法では、条件変更により、債務者区分の変更をしない取り扱いとなっています。従って、これの適用を受けたことを理由に新規融資を拒否してはならないことになっています。


金融円滑化法による条件変更を受けた中小企業の今後の問題

 金融機関は中小企業者からの貸付条件変更等の申し込みに際しては、経営再建計画の策定にむけて真摯に議論することになっています。従って、本来、中小企業者は経営再建計画を持って、貸付条件変更等の申し込みをすべきです。しかし、債務者が実現可能性の高い抜本的な経営再建計画(実抜計画)を策定していない場合であっても、貸出条件の変更日から最長1年以内に経営再建計画を策定する見込みがあるときは、当該期間は貸出条件緩和債権に該当しないものと判断して差し支えないこととされ、この場合には経営再建計画の策定見込みでよいことになっています。なお、「経営再建計画を策定する見込みがあるとき」とは債務者の経営再建のための資源等の存在があること、及び、債務者に経営再建計画策定の意思があるときとされています。現実問題として、中小企業がこの金融円滑化法に基づく返済条件の変更を申し入れる際に経営再建計画を策定して申し入れることは少ないと思われるし、現実にも、ほとんどのケースは「経営再建計画を策定する見込みがあるとき」として、実行されているようであります。
 このように、「経営再建計画を策定する見込みがある」として、条件変更(たとえば、元本返済の猶予)を受けているとすれば、1年以内に実現可能性のある抜本的再建計画を策定しなければなりません。円滑化法では、この策定に金融機関も相談協力するようになっていますが、多くの金融機関は個別的な各企業と一緒になってこの策定をしてくれるとは思えません。
これをする人的資源が金融機関にあるとは思えない。金融機関は適用企業に対し、「実抜計画を早く出すように」と要求することになると思われます。
 すでに、この法律の適用をうけ、条件変更をしてもらっている企業はすでに6カ月以上が過ぎたことを意識し、実現可能性のある抜本的再建計画の策定の準備をしなければなりません。既に、この時期に来ていることを意識してください。できるだけ早く、策定の準備をしてください。
 どのように再建計画を策定するかは専門家である当事務所に気軽に相談してください。
 私たちの事務所は公認会計士、税理士とネットワークを持ち、ご希望に応じられます。

 

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